なぜ買い替えないのか? スイッチングコストの謎に迫る

皆さんが今使っている製品やサービスを他のものに替えようと思うのはどんな時でしょうか?

今のモノでは物足りなくなった、より良いモノが出た、故障や不具合が多くなった、仕様が時代遅れになってきた、単に飽きてきたなど公私共々で考えるとさまざまな理由が考えられます。例えば自宅で利用しているインターネット回線。最近動画を見る機会が増えたためか、ちょっと遅く感じることが多くなってきたのでもう少し早い回線にしたい…。

そうは思ってもなかなか実際には新しいインターネット回線に切り替えない場合があります。このように、他の製品やサービスに切り替えたくても切り替えない要因を「スイッチングコスト」と言います。

今回は意外と重要な意味を持つ、この「スイッチングコスト」について考えてみたいと思います。

なぜ買い替えないのか? スイッチングコストの謎に迫る

皆さんが今使っている製品やサービスを他のものに替えようと思うのはどんな時でしょうか?

今のモノでは物足りなくなった、より良いモノが出た、故障や不具合が多くなった、仕様が時代遅れになってきた、単に飽きてきたなど公私共々で考えるとさまざまな理由が考えられます。例えば自宅で利用しているインターネット回線。最近動画を見る機会が増えたためか、ちょっと遅く感じることが多くなってきたのでもう少し早い回線にしたい…。

そうは思ってもなかなか実際には新しいインターネット回線に切り替えない場合があります。このように、他の製品やサービスに切り替えたくても切り替えない要因を「スイッチングコスト」と言います。

今回は意外と重要な意味を持つ、この「スイッチングコスト」について考えてみたいと思います。

スイッチングコストとは

インターネット回線の切り替え時の例で言うと、切り替えを阻む要素として具体的には、

  • 「解約や新規申し込みの手続きが面倒だ」
  • 「工事費が掛かる」
  • 「切り替え時に一時的に新旧二重の利用料金がかかってしまう」
  • 「PCやタブレットなど何台もデバイス側の設定を変更しなければならないのが面倒」
  • 「新しい回線が今の回線並に安定しているかどうか分からないので不安」

などが考えられます。

スイッチングコストは一般的に、「金銭的コスト」と「手間コスト」、「心理的コスト」の3種類があると言われています。上の例でいうと工事費や切り替え時の二重コストが金銭的コスト、手続きや設定が面倒なのが手間コスト、安定しているか不安なのが心理的コストに相当します。

これらの「コスト」が、実際に新しいモノに切り替えた時のメリットよりも大きいと判断した場合は、切り替えの必要性を感じつつも、実際には切り替えないという事になります。これがスイッチングコストの正体です。

実は侮れないスイッチングコスト

このように、仮にいくら良い製品やサービスを開発しても、条件次第では「買ってくれない」状況が生まれます。それも、顧客が今利用しているモノが新しいモノより遥かに古くて質の悪い場合でもです。

マーケティング上は、このように製品やサービスの切り替えの判断を左右するスイッチングコストは、非常に重要な要素と言えます。繰り返しになりますが、単純にいくら良い製品やサービスを開発、販売してもスイッチングコストが高ければ、または高いと感じているのであれば、その製品は売れることが無いからです。

それではどのような状態になると買い替えが発生するのでしょうか。少し単純化してモデル式で表すと次のようになります。

[新しい製品/サービスの価値] - [スイッチングコスト] > [既存の製品/サービスの価値]

スイッチングコストが存在しなければ、単純に新旧2つのモノの価値を比較して良い方を利用することになりますが、スイッチングコストは「コスト」として認識されますので、新しいモノの方の価値からの目減りとして「計算」されてしまいます。従って、スイッチングコストを上回る付加価値がなければ買い替えが発生しないことになります。

一般的に新規顧客獲得のためのマーケティングコストは、既存顧客の維持コストと比較して数倍必要だと言われています。そういった観点からも、いかにスイッチングコストを低くして新規客を獲得するか、また逆にスイッチングコストを高くして既存顧客を守るのかがマーケティング上大きなテーマの1つということができるでしょう。

スイッチングコストを上げて顧客を守る

ここまでで分かるように、スイッチングコストは自社の既存顧客を守るものとしての観点と、新規顧客獲得のためにいかに壁を低くするかの両面から考える必要があります。

それではまず、スイッチングコストを上げて自社の既存顧客を守るにはどのような方法があるのかを見てみましょう。

まずよく知られている例は、ポイントカードでしょう。顧客にポイントを貯めて貰うことで、そのポイントを使わなければ損(使ったら得)であるという心理を突いて、自社での再購入を促す方法です。金銭的なものと心理的なものをうまく組み合わせた巧みな方法だとは思いますが、複数ポイントカードを所持するという方法(手間コスト)で簡単にすり抜けられるやり方でもあります。

ポイントカードには、スイッチングコストとしての意味以外にも、これまであまり小売ではできなかった、顧客と購買履歴を紐付けることができるというメリットもありますので流通各社で盛んに導入されています。近年はポイントの交換や統合、共通ポイント利用の動きも盛んになってきています。単純な1企業でのスイッチングコスト高を狙った抱え込みの域を超えて、共通化している「陣営」での抱え込みという少し複雑な戦略の様相を呈してきました。

その他にも、工業製品やIT系サービスで採用される独自規格や自主規格などもスイッチングコストをコントロールする方法といえるでしょう。切り替えには規格の変更に伴い比較的大きなコストが掛かることになります。独自規格や自主規格の採用は、それを元に業界標準を制定して業界でのイニシアチブと取りたい、という意味合いを持つケースもあります。また、独自規格を採用することは逆に互換性を低くしてしまうという課題があることを認識しておく必要があります。

上記の例で感じられる通り、スイッチングコストを高くして囲い込む戦略には一種の危うさも存在します。それは自社に縛り付けておくことで顧客に不利益を与えてしまうリスクがあることです。従って、中長期的には、製品やサービスを「切り替えない」ことで顧客が事実上支払っている(に等しい)スイッチングコストを、別の形で価値提供することにより一定以上清算しなければ、自社のロイヤリティを下げてしまうことになりかねませんので注意が必要です。端的に言えば「切り替えないで継続利用するだけの価値のある製品/サービスをしっかりと提供する、またはそれだけの価値がある企業であり続ける」必要がある、ということです。

スイッチングコストを下げて新規顧客を獲得する

続いては、逆にスイッチングコストを下げる施策について見てみましょう。
スイッチングコストを下げるといっても、もちろん自社の顧客のスイッチングコストを下げる訳ではなく、競合他社などのスイッチングコストをできるだけ無効にする方策を実行するということです。

携帯電話の業界は、(一部批判はありますが)既存顧客よりも新規顧客を優先した施策が取られています。自社の既存顧客に対しては、一部長期割引などを実施していますが、それよりも新規顧客に対する優遇策が優先的に実施されています。

例えば、

  • MNP(Mobile Number Portability。政府施策)
    • 契約会社変更時に電話番号変更が不要となり手間コストが削減
  • 実質端末ゼロ円施策
    • 割賦販売や通信費からの割引などを利用して端末代金を実質無料にすることで金銭コストを削減
  • 商品券等によるキャッシュバック
    • 他社からの切り替えの場合はキャッシュバックすることにより金銭コスト削減

などが実施されています。「行き過ぎ」との政府指導などの影響もあり一時期は少し抑制されたかのように見えましたが、再び元の状態に戻っています。確かにこれだけ優遇されれば「替えない理由が見つからない」ぐらいです。

このように、携帯電話の契約会社変更の際に、電話番号を変えなければならなかったり、端末を購入したりするスイッチングコストを低減することで、抱え込みを無効化することが可能になります。

まとめ

  • スイッチングコストとは、製品やサービスを切り替える際に顧客が支払うコスト、すなわち切り替えを阻む要因のことを言う
  • スイッチングコストには、「金銭的コスト」、「手間コスト」、「心理的コスト」の3種類がある
  • 切り替えの条件を左右するスイッチングコストは、マーケティング的には重要なテーマである
  • 企業はスイッチングコストを上げて自社の既存顧客を守るか、反対に下げることによって新規顧客を獲得する施策を実行する

いかがでしたでしょうか。スイッチングコストには、今の製品やサービスを切り替えるかどうかと判断基準という観点の他に、新しい製品やサービスを発案する際にもヒントになるものも隠れています。ぜひ色々な観点から考えて、活用してみてください。

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