複数ブランドで有利に戦う! マルチブランド戦略

複数の製品ブランド展開をする場合に、どのようなブランド戦略を採るべきかの選択肢の1つが「マルチブランド戦略」です。今回はそのようなマルチブランド戦略について、そのメリットやデメリット、また他に採り得るべき戦略について解説します。

複数ブランドで有利に戦う! マルチブランド戦略

複数の製品ブランド展開をする場合に、どのようなブランド戦略を採るべきかの選択肢の1つが「マルチブランド戦略」です。今回はそのようなマルチブランド戦略について、そのメリットやデメリット、また他に採り得るべき戦略について解説します。

ブランド戦略の重要性

「ブランド」とは、なかなか分かりそうでその実理解が難しい概念かもしれません。例えば有名なコトラー氏の定義では、ブランドとは「個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ」とされています。

簡単に言うと「他のものと識別するための識別子」の役割を果たしているものがブランドということになります。

実際には「ブランドイメージ」などの言葉があるように、消費者が感じるその企業や製品に対する心的なイメージや印象を含み、さらには「期待」や「信頼」なども表すもので、消費者が製品を購入する際には、その選択基準に大きな影響を及ぼします。従ってブランドは、企業がマーケティング戦略を進める際には非常に重要な要素となります。

マルチブランド戦略とは

新製品を開発したり市場に投入する際には、その製品自身の特性などに加えて、現在あるブランドの状況や既存の製品との関連を考慮した上で、新しい製品が加わった後のブランドはどうあるべきかをしっかりと戦略的に決定しておく必要があります。

そして新製品投入時に採られるブランド戦略の1つが「マルチブランド戦略」です。

マルチブランド戦略とは、同じ製品カテゴリー内に複数の自社製品ブランドを立てる方法です。例えばトヨタ自動車が同じ自動車のカテゴリーで「TOYOTA」ブランドと「LEXUS」ブランドを並立させて展開しているような場合です。

マルチブランド戦略のメリット

既存の製品カテゴリーにすでにブランドが存在するのになぜわざわざ別の製品ブランドを立てる必要があるのか? マルチブランド戦略のメリットはどうものなのか? を見てみましょう

既存の製品のブランドポジションや地位を変更することなく市場の拡張ができる

新製品が既存製品とどの程度類似しているかどうかは時により違います。消費者から見た場合、同一ブランドと認識するのが困難な程の差異がある場合(機能やデザイン、ベネフィット、価格帯など)、既存のブランドを再認識してもらうより新たなブランドでメッセージを発信した方が伝わりやすい場合があります。

特に既存ブランドが長期間にわたり定着していたり、印象が強い場合などは既存ブランドの再認識には、多くのコストや時間がかかり、なおかつ今までのブランド構築コストを無駄にしてしまう恐れもありますので、新たなブランドを並立させた方が合理的な場合があります。

他社のシェア拡大や参入を抑止する

複数ブランドを並立させることで、同製品カテゴリーのさまざまな消費者をできるだけ隙間なく取り込み、他社が参入できる余地を小さくしておくことで、他社のシェア拡大や新規参入を抑えることができます。

複数ブランドを存在させてリスクヘッジする

ブランド戦略は必ずしも成功する訳ではありません。ある製品カテゴリーのブランド戦略が失敗した場合、そのブランドのみしか存在しなければその製品カテゴリーでのブランド戦略を最初からやり直す必要があります。マルチブランド戦略を採っている場合は、別のブランドでその製品カテゴリー内で引き続き勝負することができ、市場確保のリスクヘッジとして働きます。

市場の活性化

複数のブランドから情報発信されることにより話題が豊富になり、自社ブランドのみならず該当の製品カテゴリー全体が賑やかとなることで市場が活性化されます。

マルチブランド戦略のデメリット/課題

反対にマルチブランド戦略には次のようなデメリットや課題があります。

マーケティングリソースの分散

広告やさまざまなプロモーションなどを個々のブランド毎に行わなくてはならないためにマーケティングリソースが分散し、十分なブランド育成ができない場合があります。もしくはすべてのブランドを育成するために、より多くのコストがかかってしまう場合があります。

生産/流通のボリュームメリットが得られない

ご存知の通り、製品の生産や流通に関してはボリュームメリットがあり、一般的に生産量や流通量が多いほど単位当たりの生産コストや流通コストが下がります。ブランドを分散することでそれらのボリュームメリットが得られなくなるか、得るメリットが少なくなる可能性があります。

ブランドの差別化が曖昧になる

同じ製品カテゴリー内にブランドが乱立することにより各ブランド間の差別化が曖昧になり、緻密なブランド戦略を行っていない場合などは、ブランド維持が困難になってしまう場合があります。

その他のブランド戦略

上記を見て分かる通り、マルチブランド戦略は、企業のリソースが豊富で比較的大規模な事業の拡張や安定化を狙う場合に、より有効な手段であると考えられます。その時々の自社や市場の状況、事業の方向性はさまざまですので、ブランド戦略もそれに適した方法を用いる必要があります。新製品投入時などに採られるブランド戦略の方法には、上記のマルチブランド戦略の他に次のようなものがあります。

ライン拡張

製品ブランドはそのままにして、同じ製品ブランド内で製品ラインを拡張していく方法です。「コカ・コーラ」に「コカ・コーラ・ゼロ」、「コカ・コーラ・プラス」などの派生的な製品ラインを拡張するような場合です。既存のブランドをそのまま利用して消費者とコミュニケーションができますので、既存ブランドが「強い」(ブランド力がある)場合は特にマーケティング効率が良くなるというメリットがあります。

その反面、同じ製品ブランド内で自社製品が売上を食い合う「カニバリズム」が発生するリスクがありますので、製品同士の差別化などに留意する必要があります。(場合によっては、あえてカニバリズムを発生させるような戦略を採る場合もあります。)

ブランド拡張

ブランド拡張とは、既存の製品ブランドを他の製品カテゴリーに拡張して使用することです。言い換えると、新市場に参入しようとする際に、既存の製品ブランドを使って新市場で少しでも有利にブランド展開をしようとする戦略です。

新規参入の際のリスクを軽減すると共に、新しい製品カテゴリーでもブランド構築が成功すれば、さらに強大なブランド力を得ることができるというメリットがあります。ソニーが金融分野に進出した際にソニーブランドをそのまま使用し、ソニー損保やソニー銀行などのブランドを展開したのがその例です。

不祥事などである製品カテゴリーのブランド力が低下した場合、一気に他の製品カテゴリーのブランドへも影響が波及してしまうというデメリットがあります。

新ブランド

新たに参入する製品カテゴリーに新しいブランドを構築する方法です。最もシンプルな方法で他ブランドなどからの影響を受けないために、さまざまな戦略オプションを採ることができます。その反面一からブランドを育てる必要があるため、多くのコストや時間が必要です。

まとめ

  • マルチブランド戦略とは、同じ製品カテゴリー内に複数の自社製品ブランドを立てる戦略のこと

  • マルチブランド戦略は、新製品による市場拡張などには低リスクで効率が良いが、リソースが分散してしまうというデメリットがある

  • マルチブランド戦略は、企業のリソースが豊富で比較的大規模な事業の拡張や安定化を狙う場合に有効である

  • マルチブランド戦略の他に、ライン拡張やブランド拡張、新ブランドなどのブランド戦略の選択肢がある

多くの消費者に信頼され愛されるブランドを構築するためには、地道な商品開発や改良、また密接な消費者とのコミュニケーションなどが必要です。

そのようなブランド構築には多くの時間と労力、そしてコストがかかるため、最も状況に応じた戦略オプションを採択するようにしましょう。