なぜ共食いは発生する? カニバリゼーションのマーケティング的意味

カニバリゼーション(cannibalization)とは、元々生物界での共食いを意味します。マーケティングにおいては、自社やグループ企業の製品/流通チャネルなどが売上や流通量を食い合う現象を言います。

例えば、すぐ近くに同系列のコンビニエンスストアが複数店舗存在したり、同じ企業から同じような製品がいくつも販売されているような現象がカニバリゼーションに当たります。このようなカニバリゼーションはなぜ起こるのか? またそれにはどのような意味があるのかを考えてみましょう。

なぜ共食いは発生する? カニバリゼーションのマーケティング的意味

カニバリゼーション(cannibalization)とは、元々生物界での共食いを意味します。マーケティングにおいては、自社やグループ企業の製品/流通チャネルなどが売上や流通量を食い合う現象を言います。

例えば、すぐ近くに同系列のコンビニエンスストアが複数店舗存在したり、同じ企業から同じような製品がいくつも販売されているような現象がカニバリゼーションに当たります。このようなカニバリゼーションはなぜ起こるのか? またそれにはどのような意味があるのかを考えてみましょう。

カニバリゼーションには大きく2種類ある

カニバリゼーションには、大きく分けて2つの種類があります。商品戦略や流通戦略上の失敗が原因で食い合いが発生し、意図せず自社などに不利益をもたらすカニバリゼーションと、企業がマーケティング戦略の一貫として意図的に発生させる戦略としてのカニバリゼーションです。

前者は商品ポジショニングが上手くできなかったり、流通チャネルの統制が取れていなかったりすることが原因で発生し、後者は自社の市場を堅固にしたり、競争力を強化するためなどの際に戦略的に用いられます。それぞれどのようなパターンや方法があるのかを見てみましょう

意図せず発生するカニバリゼーション

典型的な例は、新製品の市場投入によって既製品の市場が食われてしまう場合です。有名なのはビール業界における発泡酒投入の例です。ビール製造各社は、より税金の安い発泡酒ジャンルのお酒を市場投入することにより自社の売上の拡大を目指しました。

発泡酒自体の売上は好調でしたが、結果的には新しい市場を開拓するのではなく、既存のビール市場の売上を発泡酒が食ってしまっただけに終わり、全体としての売上は伸びませんでした。

また、既存の製品のポジショニングが変化していく中で、自社の他製品とカニバリゼーションを起こしてしまう例もあります。例えば企業向けのソフトウエアで、大企業向けの高機能ソフトウエアと中小企業向けの低価格ソフトウエアの2ラインの製品を取り扱っているような場合があります。

顧客要望や競合対策のために中小向け製品に機能追加していった結果、大企業向け製品との機能差がなくなってきたり、反対に大企業向け製品の価格競争力を上げようとして、中小向け製品よりもコストが安くなってしまう場合があります。いずれの場合も再度製品のポジショニングなどを見直さなければ食い合いによる無駄が発生してしまいます。

製品ではなく流通チャネル上で発生するカニバリゼーションでは次のような例があります。代理店を通じて販売活動を行っている場合の例です。通常1次代理店や2次代理店ぐらいまでですと、元の販売店でも情報を把握しており統制も取れますが、3次、4次代理店など階層が多くなるに従って、大元の販売企業でも状況が把握できないために、商圏や取引先などにおいて代理店同士で想定外の食い合いが生じてしまう場合があります。

また特にSIerなどのIT業界などで、グループ企業間でカバレッジする領域が徐々に曖昧になってきたり、顧客から総合的な提案を求められるケースが増えてきたりした場合に、グループ企業同士がコンペで競合してしまうようなシーンも発生します。

このようなカニバリゼーションは、事前の新製品投入時のリサーチやプランが十分でなかったり、技術や市場の変化/進歩などによって状況が変化したりなどさまざまな原因で発生します。

意図せず発生するカニバリゼーションを防ぐには?

このように無計画で意図せず発生してしまうカニバリゼーションは、企業にとって良い影響を及ぼしません。これらの発生を防ぐにはどのような対策を採れば良いのでしょうか。

新製品開発/投入時

新製品投入時に起こるカニバリゼーションの多くは、商品ポジショニングやターゲット像が明確になっていなかったり、間違っていたりすることが原因で発生します。特に既存商品との差別化がされておらず、商品ポジショニングやターゲット像が重複してしまうことからカニバリゼーションを引き起こすケースが典型的です。

従ってそれらを防ぐためには、商品企画時のリサーチや、テストマーケティングなどの手法を用いて検証することにより、ポジショニングやターゲティングの精度や適正度などを上げることが必要になります。商品ポジショニングやターゲッティングは商品企画の最もコアな部分でもあり、その精度は実際にはプランナーのスキルや経験によっても左右されますので、そのような視点でも注意する必要もあるでしょう。

既存製品のリ・ポジショニング

例でも上げた既存製品のターゲットやポジションが徐々にズレていく場合はどうしたら良いのでしょうか。通常の製品の場合でも、さまざまな状況の変化に対応するために、商品ポジショニングを変化させ、同じ製品でも今までと違ったターゲットに訴求する再ポジショニング(リ・ポジショニング)という手法が、マーケティング活動の商品戦略の一貫して用いられます。

既存製品のポジショニングがズレてカニバリゼーションが発生している場合は、いずれかの製品(または同カテゴリーの全製品)の再ポジショニングを行って、ターゲットが重複しないようにプロモーションや流通チャネルを工夫して差別化することが必要になってきます。

またその他にも、思い切って製品の統廃合によって不要な製品を廃止して、より明快な製品群にブラッシュアップするなどの対策も有効です。いずれにしてもカニバリゼーションによる悪影響が大きくなる前に早めに先手を打つことが重要です。

流通チャネルの多様化/錯綜

代理店やグループ企業での流通チャネルにおけるカニバリゼーションに関しては、複数の企業が関連して発生するために、まずは情報収集や共有/一元化、利害関係の調整などの仕組みを構築することが必要になります。それには強いリーダシップを発揮する企業や組織が存在することが条件となるでしょう。

戦略的なカニバリゼーションとは?

一般的に、カニバリゼーションの発生は企業に良い影響を及ぼしませんが、自社の競争力を強化させるためにあえて発生させることがあります。具体的には次のようなケースがあります。

自社製品の市場シェアを堅固にする

有名な例は、ポテトチップスなどの菓子類で同じ製品で少し違った味のものを多数出しているケースです。同種のお菓子なので当然自社製品内でカニバリゼーションが発生し、売上を食い合うことになります。

しかし消費者がポテトチップスを選ぶ場合「どれを選んでも自社の製品」になるぐらいの製品ラインナップを揃えることにより、競合他社の製品を排除することが可能になります。その結果、自社製品内で多少のカニバリゼーションが発生しても、競合を排除することにより自社のポテトチップス製品の売上が上がることにつながります。

この方法は菓子類だけではなく、自動車やコンビニ業界などでも用いられます。自動車では、ターゲットの一部をあえて重複するように製品ラインを用意してカニバリゼーションを発生させ、どのターゲット層でも自社製品の中で選択する(A社かB社かの選択ではなく、A社の●●か■■かの選択にする)ように誘導することが可能になります。

また、駅前に同系列のコンビニが何店も出店している場合も同様に、自社系列の中でのみ消費者に選択させるようにすることを意図しています。さらにそのような「過剰なカニバリゼーション状態」を作り出して他社の参入障壁を高くし、そのエリアに参入してくるのを阻止する効果もあります。

自社やグループ企業内などで競争させる

営業組織や販売組織などをあえてカニバリゼーションが起こるような形に組織し、互いに競争させることによって全体として売上向上などを目指す場合があります。先程の流通チャネルにおける意図しないカニバリゼーションと一見同じような現象を起こしますが、こちらの方は同系列の販売組織や流通チャネル同士を競争させることを目的して意図的に食い合いを発生させます。

このようなケースは大なり小なり意外と多くの実例があります。例えば同じ自動車会社系列の販売ディーラーを何種類か作り、一部の販売車種をあえて重複させて競争させる場合や、各地方の営業所の販売地域を一部重複させたり曖昧にしたりして争わせる場合などがあります。前述の狭地域で複数店出店するコンビニの場合は、この同系列で競争させる意味合いがある場合もあります。

一見効率が悪いカニバリゼーションですが、このように自社を有利に導く手法として用いられる場合もあります。

まとめ

・カニバリゼーションは、自社やグループ企業内で互いに売上などを食い合う現象を言う

・カニバリゼーションには無計画に発生し自社に不利益をもたらすものと、企業が競争優位を獲得するために戦略的にあえて発生させるものがある

・無計画に発生するものは、商品戦略上の誤りや流通チャネルの無秩序な多様化などによって生じる

・戦略的なカニバリゼーションは、商品ラインナップを強化して他社参入を防いだり、自社内での競争原理を働かせたりするために用いられる

カニバリゼーションというとあまり良いイメージを抱かれないかもしれませんが、必ずしもネガティブな面だけではないことはご理解いただけたかと思います。

また、例でも上げたように比較的成熟した市場で発生しやすく、戦略的に用いる場合も、安定した市場に対して適用する場合が多く見受けられます。成熟した市場の戦略を考える際のヒントとしてぜひ活用してみてください。

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