「アンゾフの成長マトリックス」で製品開発・市場拡大を戦略的に進めよう!

「アンゾフの成長マトリックス」で製品開発・市場拡大を戦略的に進めよう!

「アンゾフの成長マトリックス」で製品開発・市場拡大を戦略的に進めよう!

1960年台の米国では、多くの大手企業は潤沢な経営リソースを生かして積極的なM&Aを展開することで、新製品の投入や国外に進出し、事業多角化や事業拡大を実現していました。このような方法は規模の経済性によって経営が効率化するというメリットはありますが、同時に経営管理が複雑になっていくという課題も生じさせました。

そのような課題に対して、戦略的に事業の多角化を図る方法論として考え出されたのが「アンゾフの成長マトリックス」です。今回は成長戦略策定や事業多角化を図る際に有効なフレームワークとしてアンゾフの成長マトリックスをご紹介します。

市場や製品などさまざまな視点で成長戦略を検討できる

アンゾフの成長マトリックスは、経営学者のイゴール・アンゾフ氏が、1965年の著書『企業戦略論』で提唱した理論です。製品を既存製品と新製品、市場を既存市場と新市場に分け、それぞれを組み合わせたパターンを4つの象限にマトリックスの形で分類。各象限ごとの成長戦略を検討したものです。製品と市場の双方の観点から自社事業の特性を判断して、なおかつコストおよびリターンの両面から戦略分析できる点が優れていると言われています。また、マトリックスを利用して、今までは思いつかなかったような意外な成長戦略を発見できたり、経営リソースを効率よく配分して事業の運営ができたりするメリットもあります。

パターン別の最適な成長戦略

アンゾフの成長マトリックスでは、縦軸に「市場」、横軸に「製品」をとり、それぞれ既存市場・新市場、既存製品・新製品とします。その各組み合わせの全4パターンに対して最も有効な成長戦略を提示しています。1つずつ見ていきましょう。

既存市場×既存製品:「市場浸透戦略」

既存市場における既存製品の戦略ということは、既存事業の戦略と言い換えることもできます。既に製品としては定着している反面、競合商品も多く出現している状況です。そういった状況では、自社製品の認知度合いやブランド力向上、または消費者の購買意欲向上などによって、シェア拡大や購入頻度・量の拡大を目指す戦略が有効です。実際には、例えば広告投入によるブランド浸透策、ボリュームディスカウントやインセンティブによる購買欲向上策、またアフターサービス向上によるロイヤルカスタマー化策などが考えられます。

既存市場×新製品:「製品開発戦略」

既存市場に対して、新しい製品を投入して売上拡大を目指します。既存製品を改良したり、顧客ニーズに合わせて仕様などを変更したりすることで新しい製品を生み出します。飲料水や菓子類などで一定の頻度で新製品が投入されるケースがこの製品開発戦略に相当します。市場調査などによって顧客ニーズを把握し、それを元に斬新なアイデアを用いていかに差別化して顧客の興味を引きつけることができるかがポイントです。新製品開発におけるスピードやマーケティングにおいて、競合間で激しい競争が繰り広げられるケースが多く見受けられます。

新市場×既存製品:「新市場開拓戦略」

今ある製品を、現在とは違う市場に投入して売上拡大を狙う戦略です。海外市場に乗り出したり、女性向け製品を男性にも展開したりするなどのケースが該当します。一般的に特定の製品は、特定のターゲット向けに開発されているために、そのまま展開しては受け入れられません。従って新しい市場や顧客層にフィットしたカスタマイズを行うか、従来とは違った使い方やイメージを訴求するマーケティングを実施するなどの方法で新たな市場での浸透を試みます。また、ターゲットとなる市場に既にマーケットリーダーが存在する場合は、その企業に対する対抗策を十分に検討する必要があります。

新市場×新製品:「多角化戦略」

今までになかったまったく新しい市場を創造することになりますので、成功した際に得るものが非常に大きい反面、リスクも大きい戦略です。成功のためには、自社のコアコンピタンスやバリューチェーン、自社が置かれている市場状況や技術動向などを的確に把握した上で戦略を策定・実行する必要があります。

多角化戦略に成功した場合は、自社の事業戦略オプションが増えることによって、多様な戦略が選択可能になりますが、事業マネジメントが複雑になることも事前に理解しておく必要があります。多角化戦略には「水平型多角化」、「垂直型多角化」、「集中型多角化」、「集成型多角化」の4つのタイプがあります。次章で詳細をご説明します。

事業の多角化にもさまざまな方法がある

水平型多角化

まったく未知の市場や製品に挑戦するのではなく、既存市場や製品の周辺部に多角化していく方法です。PC事業からタブレット端末などへ製品を増やしたり、ソフトウエア事業に乗り出したりするケース、また、医薬品企業が医療関連事業を始めるケースなどが該当します。既存の技術や設備、ノウハウなどをカスタマイズすることで適用できるケースも多いため、多角化の中では最もリスクの低い方法です。

垂直型多角化

製品や商流の上流や下流に進出することで多角化を図る戦略です。通販会社が、プライベートブランド商品の製造に乗り出したり、流通も自社で行うケースや、食品メーカーが外食産業に進出したり、逆に外食産業が農業などの食材製造を手がけるケースなどがあります。新たな設備投資やノウハウが必要な反面、バリューチェーンをコントロールできる範囲が拡大するために、より効率よく利益を得ることが可能になります。また製品の供給から流通、販売まで含めて計画的に事業を運営できるメリットもあります。

集中型多角化

集中型は、自社のコアコンピタンスに着目して、それを生かす形で事業を多角化していく戦略です。メディア企業がその情報収集力やコンテンツ作成技術などを生かして、さまざまなメディア事業を展開するケースや、食品メーカーが食品製造過程で培ったバイオ技術を生かしてバイオ事業に乗り出すケースなどが当てはまります。

集成型多角化

集成型は、既存の事業と直接的には関わりのない事業に乗り出すケースです。製造業や流通業が金融業に乗り出したり、アパレルメーカーが食品製造に進出したりするなど、さまざまなパターンが見られます。現在のノウハウや設備を生かす部分が極めて少ない反面、未知の領域の進出することによって、自社の事業ポートフォリオを一気に拡大させることができるというメリットがあります。近年ではM&Aによる集成型多角化も盛んに行われています。

まとめ

  • アンゾフの成長マトリックスとは、市場と製品を既存、新規に分け、それぞれの組み合わせで最適な成長戦略を示したもの

  • 既存市場×既存製品には「市場浸透戦略」、既存市場×新製品には「製品開発戦略」、新市場×既存製品には「新市場開拓戦略」、新市場×新製品には「多角化戦略」が採用される

  • 多角化戦略には、多角化の方向や方法によって水平型や集中型など4種類がある

新製品やサービスを開発する場合、単に製品の機能やベネフィットだけではなく、事業や市場全体を見据えた上で進めなければ事業として成功する確率が低くなります。また、そもそも「新しい製品」が今自社にとって必要なのか? も検討する必要がるでしょう。そのような場合にアンゾフの成長マトリックスが有効なツールになります。

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