従業員が満足することで企業収益が向上する「サービス・プロフィット・チェーン」の考え方

従業員が満足することで企業収益が向上する「サービス・プロフィット・チェーン」の考え方

従業員が満足することで企業収益が向上する「サービス・プロフィット・チェーン」の考え方

サービス業は、製造業とは少し違う独特の価値提供モデルを持っています。今回はそのようなサービス業における収益向上のフレームワークである「サービス・プロフィット・チェーン」をご紹介します。

形がなく目に見えないものを提供するサービス業

「サービスは無償で受けられるもの」という考えをお持ちの方は、さすがに最近は少なくなってきました。サービスという言葉に「(無料)奉仕」のニュアンスが強く含まれるのは日本語(和製英語)の方で、原語の「Service」には労働や接客、修理や兵役など、どちらかといえば現代のサービス業に近いニュアンスが強いのです。しかし一言でサービス業といっても、小売業から医療、福祉、飲食、教育関連などさまざまな種類のサービスを提供しています。そして、サービス業は「形がなく目に見えないものを売る」ビジネスだと言うことができます。

現在、就業人口の比率が最も多いサービス業。その種類や形態は千差万別ですが、その一番の特徴といえば「生産と消費が同時に行われる」ことです。すなわち、基本的にはその場限りで完了し、場所や時間を取り替えて消費したり、そっくり再現したりすることができません。そして、お客様と企業との間の「接点」が重要かつ決定的な意味を持つのもサービス業の大きな特徴です。その接点において消費されるサービスの品質こそが「サービス品質」と呼ばれ、サービス業にとって最も重要な指標の1つです。

サービス業における顧客満足度と、従業員満足度が持つ意味

サービス品質を直接測るのは技術的に難しい部分があります。その計測方法は、サービスの提供方法・内容によってさまざまな方法が考案されていますが、多くは例えば「電話対応における品質」などの非常に限定した領域にしか適用できません。それに代わって間接的にではありますが統一的に計測できる指標が「顧客満足度」(CS)です。CSも正確に計測しようとすれば難しい部分もありますが、それでも一定の計測方法が確立されているために、サービス品質を直接計測するよりも容易に、かつ統一的な基準で行うことができます。

CSは、主に「取り扱う製品やサービスの内容」と、「接点における従業員の接客態度・内容」の2点によって差が出ると言われています。そして接客態度・内容には、その従業員の従業員満足度(ES)が大きく関わってくると言われています。このような顧客満足度や従業員満足が自社の事業に与える影響を事業戦略的な視点で示したものがサービス・プロフィット・チェーンです。

サービス・プロフィット・チェーンとは

サービス・プロフィット・チェーン(SPC)とは、ESおよびCSが企業収益に及ぼす因果関係を、事業戦略的な視点で示したフレームワークです。1994年、ハーバード・ビジネス・スクールのヘスケット教授およびサッサー教授によって提唱されました。SPCが示すフレームワークは、一言で表現すると「サービス業においては、従業員を重視して満足度を上げることが結果的に企業の収益向上につながる」というものです。

その理由は、次のような因果関係が成り立つからです。

1)企業の社内サービス品質が高ければ、ESが向上する
2)ESが高くなれば従業員の企業に対するロイヤルティが生まれ、生産性も向上する
3)従業員のロイヤルティや高い生産性が、サービス品質を向上させる
4)サービス品質の向上によってCSが向上する
5)CSが高まることで、顧客の企業に対するロイヤルティが芽生える
6)高い顧客ロイヤルティは、企業の収益に好影響を与える
7)企業の収益向上が、社内サービス品質を充実させる(そして1.に戻る)

こうして一気に列挙すると、「本当にそうか?」と少し疑われるかもしれません。しかし一つひとつ丁寧に見てみてください。それぞれの内容はそれほど非現実的ではなく、むしろ「さもありなん」というものが多くはないでしょうか。また、因果関係と申し上げましたが、実際には上記にあるとおり7から1に戻りますので、循環した因果関係です。この循環関係が成立し「うまく回る」ようになれば企業の収益が向上する、というのがSPCの考え方です。

このような因果関係が成立するという前提によって、SPCでは一般的な顧客向けのエクスターナル・マーケティングに加えて、企業内部、特に従業員に対するインターナル・マーケティングも重要視することになります。さらに、サービス提供の接点におけるインタラクティブ・マーケティングも重視されます。

従業員満足度を高めるための施策の方向性

それではどのようにすればESを向上させることができるのか、簡単に見てみましょう。ES向上の施策は主に「適切な評価と能力向上」、「就労条件・環境」、「会社のビジョン・ロイヤルティ」に分けることができます。具体的視点は以下のようなものです。

適切な評価と能力向上

自分自身に対する会社の評価や処遇が自分の思うどおりのイメージか、自分の能力が発揮できる場や機会があるか、業務遂行に対する達成感があるか、また、従業員の能力向上を会社が積極的にサポートしているかなど。

就労条件・環境

給与や休暇などの待遇・就労条件、勤務形態の多様化や有給休暇取得状況などの働きやすさ、就労場所の安全性や快適性、業務に必要な機器類の整備度合い、また職場の一体感やチームワークなどの人間関係など。

会社のビジョン・ロイヤルティ

企業理念や企業戦略をどれだけ共有したり、共感を得られているか、経営情報などをどれだけ公開しているか、企業の知名度や将来性はどの程度か、自社に対するプライドはどの程度持っているかなど。

まとめ

  • 「形のないものを売る」サービス業では生産と消費が同時に行われるという特徴がある
  • サービス業では、顧客と企業の接点が重要
  • SPCは、「サービス業ではES向上が結果的に企業の収益向上につながる」ことを示したフレームワーク
  • ES向上には、評価や能力向上、就業条件、企業のロイヤルティなどに関する施策がある

昨今は製造業でも、メンテンナンスなどをはじめとした「サービス化」が進んでいます。従ってサービス業におけるさまざまな考え方を知っておくことは、これから先ますます重要になってくるでしょう。

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