イノベーションを起こすためのビジネス習慣「5Aサイクル」

イノベーションを起こすためのビジネス習慣「5Aサイクル」

イノベーションを起こすためのビジネス習慣「5Aサイクル」

ビジネスに限らず、物事を効率良く改善していく手法としてはPDCAサイクルが有名です。さまざまな現場で活用されているPDCAサイクルは、シンプルな考え方であるために誰でもその気になれば取り組めること、また、習慣化することによって成果を着実に積み上げていくことができる点で優れた手法です。しかし、収益性向上や規模拡大などビジネス分野における改善手法としては少しポイントが絞りづらく、利用者によってはうまく使いこなせない場合があります。今回はそのようなビジネス上の課題を解決し、イノベーションを喚起するための改善手法「5Aサイクル」をご紹介します。

5Aサイクルが生まれた背景

5Aサイクルは、リクルート社での新規事業開発などを経て、さまざまな商品開発や事業開発に携わってきた永田豊志氏がその著作『トップ1%の人だけが実践している思考の法則』で提唱した、ビジネスでイノベーションを起こすための手法です。

氏はこれまでの経験やビジネスマンの知的生産性を研究する中で、従来必要とされている論理的思考や頭の回転の速さなどのスキルだけでは、必ずしもビジネスを成功に導くことができなくなってきたと感じるようになりました。そして大きなイノベーションを起こした人間に共通の行動規範があることを発見。一般的なビジネスセオリーとは異なったその規範は、ある特定のプロセスを何度も繰り返し循環させるというものでした。それが今回ご紹介する5Aサイクルです。

5Aサイクルの概要

PDCAサイクルは、現状を「より良い方向に改善すること」が主眼ですが、5Aサイクルは「ビジネスイノベーションを起こす」ことが主な目的です。具体的には次の5つのプロセスで構成されており、各プロセスの5つのAの頭文字から5Aと命名されました。

  • 顧客の抱える問題の「認知」(Awareness)
  • 問題解決のための従来と異なる「アプローチ」(Approach)
  • アイデアのスピーディな「実行」(Action)
  • 仮説と実行結果の差異に対する「分析」(Analysis)
  • マーケットニーズに合わせた柔軟な「適応」(Adjustment)

PDACサイクルとは違い、より具体的なアプローチ方法が提示されています。また、イノベーションを生み出す手法で、確かにこれまでのセオリーとは少し異なったものではありますが、それほど突飛な内容ではないことはご理解いただけると思います。

各プロセスの詳細

5Aサイクルはつまるところ、チャンスを見つけて構想を練り、実行した結果を見ながら自らの行動を修正するという行為を繰り返すビジネスサイクルです。それぞれの項目がどのような意味を持つのか、少し詳しく見ていきましょう。

顧客の抱える問題の「認知」(AWARENESS)

ビジネスはまず顧客が抱える問題を認知することからスタートします。なぜならそれが市場機会の発見となるからです。そのためには顧客と直に話すなどの直接的なコミュニケーションが重要になります。統計情報や調査情報なども時には参考になりますが、あくまで2次的、補足的な情報です。その他にも人々を詳しく観察したり、その心理状態を洞察することも、市場を直接知るためには重要な方法です。

具体的に顧客の抱える問題を認知するための方法として、人が抱くさまざまな「不」の思いを発見するという方法があります。不の思いとは、不満や不安、不便などを指します。日常生活から仕事上のこと、また遊びや趣味のことなど、さまざまな事柄に対して自らが実際に感じる「不」を発見し、それを解決していくことがビジネスにつながっていくことにもなります。

問題解決のための従来と異なる「アプローチ」(APPROACH)

顧客の問題を認知した後は、それを解決するアプローチが必要になります。ただし、「当たり前」の方法ではだめ。問題解決のアイデアに、これまでとは異なるアプローチを組み合わせることが必要です。これにより、従来とは異なる視点で問題を解決し、新しい価値を生み出すことが可能になります。

今までは不可能だったり、非常識と思われていたアプローチも、最新テクノロジーやIT技術を組み合わせることで実現できる場合があります。また、異業種のアイデアを取り入れたり組み合わせたりすることで、優れたソリューションを生み出せる場合もあります。1つのアイデアが平凡なものでも、非凡なビジネスモデルや通常は非常識と思われているマーケティングなどのアプローチを採ることで、市場そのものを変えてしまう力が生まれてきます。

アイデアのスピーディな「実行」(ACTION)

実行フェーズで最も重要なのは、「誰よりも早く実行する」ことです。さらに「より早く成功したければ、より早く失敗すること」が必要です。さまざまな条件に恵まれていたとしても、新しいビジネスが最初の1回でうまくいくことは極めてまれです。小さな失敗を繰り返すことで成功への具体的な道が開かれていきます。従って、失敗を恐れて実行を遅らせることは、却って成功の目を摘むことになりかねません。誰よりも早く実行して、誰よりも早く失敗すること。これが最も早く成功を生み出すことになります。

仮説と実行結果の差異に対する「分析」(ANALYSIS)

実行結果の評価は、ビジネスプロセスにおいては必須ですが、ここでは特に事前に設定した仮説との差異に着目して分析します。前述のとおり失敗を重ねていくことで成功に導かれていくとすれば、その失敗の中身を細かく分析することにこそ意味があります。また、想定よりも良い結果が出ている要素に関しても、その要因を突き止めることでより良い結果に導くことができるかもしれません。

マーケットニーズに合わせた柔軟な「適応」(ADJUSTMENT)

実行結果の分析によって、さまざまな修正点が見えてきます。それに対する軌道修正と共に、マーケットニーズや顧客要望に合わせて柔軟に自らを適応させていくことが重要になります。マーケットニーズは、時により自社の事業方針やポリシーに反する方向に変化する場合もあります。そういった場合、必要があれば思い切って自社の事業方針変更を決断することが必要になるかもしれません。環境変化に速やかに適応できない企業は、地球環境の変化に適合できず滅んでいった絶滅種のように、その存続が危ぶまれることにもなりかねません。

まとめ

  • 5Aサイクルとは、イノベーションを喚起させるための従来とは異なったビジネス改善手法
  • 「チャンスを見つけて構想を練り、実行した結果を見ながら自らの行動を修正する」という行為を繰り返すのが5Aサイクル
  • 具体的には、顧客課題の認知、問題解決アプローチ、スピーディな実行、実行結果の分析、柔軟な適応の5つのプロセスからなる

5Aサイクルの5つのプロセスを個別に見てみると、それほど特別なことを述べている訳ではありません。5Aサイクルの意味は、それぞれ個別の内容にあるのではなく、それらを一連のビジネスサイクルとして繰り返し実行することにあります。もし、ビジネス活動が停滞気味で、何らかの突破口が必要な場合などにぜひ一度活用してみてください。

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