「デルタモデル」で、自社に最も適した戦略ポジションを選択する

「デルタモデル」で、自社に最も適した戦略ポジションを選択する

「デルタモデル」で、自社に最も適した戦略ポジションを選択する

自社の企業戦略や事業戦略を考える場合、どのような視点で考え、そしてどのような基準でベストな戦略を選択すればよいのか、非常に悩むところです。そのような課題の解決策の1つとして、「戦略ポジション」の形でさまざまな戦略オプションを比較・検討・選択できるようにしたフレームワークが「デルタモデル」です。

デルタモデルとは?

デルタモデルとは、MIT(マサチューセッツ工科大学)のアーノルド教授らによって提唱された、企業戦略、事業戦略策定のためのフレームワークです。戦略を「ベスト・プロダクト」、「トータル・カスタマー・ソリューション」、「システム・ロックイン」の3つのポジションに分類し、自社が取りうる戦略ポジションを検討できるようにしたものです。

ベスト・プロダクトは「製品の経済性」の基づく競争(製品の価値)、トータル・カスタマー・ソリューションは、顧客の経済性に基づく競争(顧客から見た価値)、システム・ロックインは、システム(製品流通やサービス提供などのシステム)の経済性に基づく競争を指しています。

各ポジションでは、システム・ロックインが最も利益率の高い戦略ポジションであり、以降トータル・カスタマー・ソリューション、ベスト・プロダクトの順に利益率が低下していきます。
それでは各ポジション軸がどのようなものなのか具体的に見ていきましょう。

ベスト・プロダクト

ベスト・プロダクトを具体的に実現する方法としては、次の2つがあります。

製品差別化

製品そのものの機能や利便性、デザイン、アフターサービスなどで他社製品と差別化する方法です。機能を重視する業種などで多く用いられ、ポルシェやアップルなどの戦略が代表的な例です。

低コスト化

規模の経済によるコストメリットや、製造における改善活動などによって原価を下げることで、価格優位性や利益を確保する方法です。多くの企業が採用していますが、分かりやすい例では、ユニクロやJINSなどが当てはまります。

トータル・カスタマー・ソリューション

顧客の経済性や顧客から見た価値を向上させる戦略目標です。次のような方法があります。

顧客経験の再定義

製品使用時のメリットを改めて顧客視点で再定義することで、顧客満足度を高める方法です。近年盛んに用いられ、商品やサービス使用時の経験価値を重視するCX(customer experience)は、この顧客経験の再定義に含まれる考え方です。エンターテイメント系のディズニーなどの例が分かりやすいでしょう。

水平方向への拡大

本業周辺の関連するサービスへ拡張・統合することで顧客の利便性を向上させていく方法です。拡張した各サービスでの売上はもちろん、各サービス間での相乗効果(クロスセルなどの)も期待できます。通販のAmazonがビデオや音楽サービスを始めたり、コンビニでチケットサービスや宅配サービスを行う例などが該当します。

顧客活動の引き受け(カスタマー・インテグレーション)

顧客が行っている事業活動を、効率化した上で自社で引き受けることで、顧客の事業活動全体の効率化に貢献する方法です。BtoB系企業でさまざまな事例がありますが、例えばSIerが、システム構築だけではなく、システム運用やデータ入力、分析などを引き受ける例がこれに相当します。

システム・ロックイン

「製品流通やサービス提供などのシステムの経済性に基づく競争」を指します。分かりやすく言い換えると、より自社に注文が入りやすく、他社に発注しにくい流通システムや仕組みを構築したり、流通システムなどを独占的に自社が運営したりすることで競争力を向上させることです。次のような方法があります。

業界標準の確立(プロプライアタリー・スタンダード)

補完事業者(例えばハードウェア企業とソフトウェア企業や部品製造企業と組み立て企業など)と手を組んで、自社に有利な業界標準を作ることで顧客を囲い込んでしまう方法です。
「標準規格」に関する争いは、さまざまな業界で見られますが、例えば次世代DVD規格として実質標準規格となったブルーレイディスクなどがその例でしょう。
ソニーやパナソニックが勝利し、東芝などが推す「HD DVD」規格の製品は市場から消えてしまいました。また、実用化が徐々に近づいてきている自動車の自動運転技術などは、これから業界標準の主導権争いが激しくなってくることが予測されます。

顧客の仲介(ドミナント・エクスチェンジ)

販売者と消費者を仲介するさまざまなプラットフォームを提供し、その仲介システムが取引に必要不可欠になるようにする戦略です。決済におけるクレジットカード会社はすでに私たちの生活に不可欠になってきていますし、これからはCtoC取引(消費者同士の取引)のメルカリなどのプラットフォームも、必要不可欠なものになっていくかもしれません。

アクセス制御

物流ネットワークや商圏などを独占することで、競合他社が参入しにくい環境をつくる方法です。数に限りある原材料などを他社に先行して押さえたり、数の理論を生かして大量に仕入れることで、特定の販売業者が流通の主導権を握ったりする例があります。またいわゆる「独占販売」はアクセス制御の典型的な方法です。

まとめ

  • デルタモデルとは、事業戦略策定のために、さまざま戦略ポジションを検討するためのフレームワーク
  • デルタモデルでは戦略ポジションを、ベスト・プロダクト、トータル・カスタマー・ソリューション、システム・ロックインの3つに分類して考える
  • ベスト・プロダクトは製品の価値に基づく競争軸で、製品差別化や低コスト化などの実現方法がある
  • トータル・カスタマー・ソリューションは、顧客の価値に着目した戦略ポジションで、顧客経験の再定義などによって実現する
  • システム・ロックインは、販売・流通システムに焦点を当てたもので、業界標準を確立したり他社がアクセスしにくくなるように制御する方法などがある。

デルタモデルは、ファイブフォースやバリューチェーンなどの外部の競争環境分析や、経営資源などの内部環境による競争理論であるリソース・ベースド・ビューなどを併用して、最適な戦略ポジションを検討、決定するのが一般的な活用方法です。戦略ポジションが決定した後は、ビジネスミッションや戦略目標、そして実行計画などを順次策定し、戦略実行フェーズに移ります。

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