人はやっぱり損したくない! コンコルド効果とプロスペクト理論
誰でも「損をしたくない」という気持ちお持ちだと思います。しかしその理由は人や時々の状況によってさまざまです。今回はどういう状況や理由で人は損をしたくないという気持ちを強く持つのか、またその気持ちをうまくマーケティングに応用する方法を解説します。
この記事の目次
誰でも「損をしたくない」という気持ちお持ちだと思います。しかしその理由は人や時々の状況によってさまざまです。今回はどういう状況や理由で人は損をしたくないという気持ちを強く持つのか、またその気持ちをうまくマーケティングに応用する方法を解説します。
損するのが分かっていてもやめられない「コンコルド効果」
コンコルド効果とは
「コンコルド効果」とは、すでに投資したコストが回収できないことが分かっているのにもかかわらず、それをもったいないと感じてしまうことで、さらなる投資をしてしまう心理現象のことです。回収不可能な投資コストを「サンクコスト」と言うことから、「サンクコスト効果」と呼ばれる場合もあります。
コンコルド効果の名称は、1960年代にイギリスとフランスが共同開発した世界初の超音速旅客機「コンコルド」の投資と事業の状況が由来となっています。コンコルドは開発途中で、従来より長い滑走路が必要になることや乗客定員数が相当に少なくなることなど、多くの問題が発覚しました。そのためキャンセルが相次ぎ、このまま開発を続けるよりも開発を中止して注文主の旅客機会社に違約金を支払ったほうが損失が少なくて済むことが試算により明らかになりました。
しかしサンクコストやこれまでの開発期間、努力のすべてが水泡に帰してしまうことが許容できず開発を続行。その結果開発費用4,000億円に対して、数兆円の赤字を出したとされます。コンコルドは1976年に就航し2003年にその役割を終えています。このように投資回収ができないことが分かっていても、投資や事業を継続してしまう典型的な例を参考にしてコンコルド効果と呼ばれるようになりました。
マーケティングへの応用例
コンコルド効果をマーケティングへ応用する際は、「ここでやめたらもったいない!」を思わせることがポイントになります。代表的な例では次のようなものがあります。
分冊百科
分冊百科はパートワーク誌とも呼ばれますが、あまり聞き慣れない言葉かもしれません。「ディアゴスティーニ方式」と言えばお分かりいただけるでしょう。何冊かに分冊した内容をすべて購入することで欲しかったものが完全な形で手に入るタイプの雑誌です。大掛かりな模型など比較的高価なものを分冊形式で分けて提供。1回当たりの出費を抑えることで購入開始時の心理的抵抗を抑え、同時に続けて購入していくと途中でやめるのは惜しくなるので、最後まで続けてしまうことになります。
オンラインゲームの「ガチャ」
オンラインゲームのガチャは、課金することでランダムにアイテムを入手できるガチャポン方式のくじです。一般的に連続して行うことで希少価値のあるアイテムなどが入手しやすくしてあるために、やればやるほど途中でやめるのがもったいなく感じてきます。ただし、行き過ぎると射幸心を煽ることになるので、使い方には注意が必要です。
スタンプカード、会員ランク付け
「10回の利用でドリンクサービス」などのスタンプカードも、使い始めはそうでもありませんが、7、8回目ぐらいになると「10回まで使ってドリンクを貰わなければ損だ」という気持ちになってきます。これもこれまでの7、8回の投資が徐々にもったいなく感じてくるコンコルド効果によるもの。また、自社の購入累計額で会員ランク分けをしてランクによって特典を供与する方法も、「あと少しでランクアップして大きな特典を得られる」ことを訴求すればコンコルド効果を発揮することができます。
損失回避を重視する「プロスペクト理論」
プロスペクト理論とは
プロスペクト理論とは、人が不確実な状況下で意思決定を行う場合、必ずしも事実のみに基づいた損得勘定で判断するのではなく、その時々状況により非合理的な判断をしてしまう意思決定モデルです。1979年に行動経済学者であるダニエル・カーネマンおよびエイモス・トベルスキーによって提唱されました。
同理論では意思決定に関して、得をした場合の感情よりも損した場合の感情を重視する「価値関数」と、物事が発生する確率が高いほど軽視し、低いほど重視してしまう「確率加重関数」が作用することで、客観的な判断をゆがめてしまうとしています。これにより、意思決定に関して以下の3つの心理作用が現れます。
損失回避性
損失回避性とは、利益を得ることよりも損失を避けることを重視する心理作用。損失に対して過剰な反応を示したり、リスク回避を優先したりする行動につながります。
感応度逓減性
少し分かりにくい言葉ですが、利益や損失の額が大きくなると、小さな利益や損失が気になりにくくなる(逓減)心理作用です。例えは普段なら購入に慎重になる10万円超の家具でも、家を買った後ではそれほど悩まずに購入してしまうなどの場合です。
参照点依存性
こちらも分かりにくい言葉ですが、今自分が置かれている状況(参照点)によって損得の判断が異なる心理現象です。オリンピックで金メダルを期待されていた選手が銅メダルに終わると悔しいですが、メダルが期待されていなかった選手ならとてもうれしい、というような場合です。
マーケティングへの応用例
プロスペクト理論をマーケティングで応用する際には、主に損失回避性に着目して「損をしたくない」という気持ちに強く訴える方法が用いられます。具体的には次のような例があります。
期間や数などを限定したキャンペーンの実施
何らかの限定条件があるキャンペーンは、「今買わなければ自分が損をするかも」と思わせることで購買促進につながります。
危機感を煽るキャッチコピー
「今すぐ使い始めなければ5年後に後悔する」「多くの人がこの方法で成功している」などのキャッチコピーは、このまま何もしなければ損をするかもしれない、自分だけが取り残されるかもしれない、という危機感を煽ることで購入を促す方法です。(自社の企業ブランドを維持するためには、極端に煽り過ぎないような節度も必要です)
無料お試しや返金保証
これまでとは逆の発想で、損(=リスク)を回避できるような方法を提示して、安心して購入できる環境を整えることで購入を促す方法です。もし商品が気に入らなかったり思ったものでなかったりしても「出費なし=損をしない」ので、損失回避を考える必要がなくなります。
まとめ
●コンコルド効果とは、すでに投資したコストが回収できないにもかかわらずさらなる投資を続けてしまう心理現象のこと
●途中でやめることが大きなデメリットと感じさせるような分冊百科やガチャ、スタンプカードなど形でマーケティングに応用されている
●不確実な状況で人が意思決定する場合、その時々の状況に影響を受けてしまうというのが「プロスペクト理論」
●プロスペクト理論によって生み出される傾向の内、損失を回避することに着目してマーケティングに応用した例では、期間限定キャンペーンや返金保証などがある
コンコルド効果とプロスペクト理論はさまざまなシーンでの応用が可能ですが、危機感や射幸心を煽ってしまう場合もありますので、しっかりと論拠を示すことで客観性を保つことが必要でしょう。