あの手この手で選ばせよう! 認知的不協和とおとり効果

人は、僅かな心理状態の変化で、興味が湧く対象や物事の選択肢が変化するものです。今回はそのような興味対象や選択肢に影響を与える心理効果「認知的不協和」と「おとり効果」についてご紹介します。どちらも適切に活用できれば、マーケティング効果の向上につながるもの。ぜひ参考にしてください。

あの手この手で選ばせよう! 認知的不協和とおとり効果

人は、僅かな心理状態の変化で、興味が湧く対象や物事の選択肢が変化するものです。今回はそのような興味対象や選択肢に影響を与える心理効果「認知的不協和」と「おとり効果」についてご紹介します。どちらも適切に活用できれば、マーケティング効果の向上につながるもの。ぜひ参考にしてください。

矛盾によってストレスを感じる「認知的不協和」

「認知的不協和」とは、「自分が認識や認知していることがらに対して、矛盾する考え方や行動パターンを不快に感じる」という心理効果のことです。少し分かりにくいかもしれませんが例を挙げると、自ら感じる「ダイエットのために食事制限しなければならない」という認識・認知と、「でもたくさん食べたい」という認識・認知の間には、「(たくさん)食べたいけど、食べては駄目だ」という矛盾を発生させることになります。これが不快感やストレスの元になり、認知的不協和を生じさせることになります。その他にも、「転職したいけどできない・しない」「無駄だと分かっていても今の業務を続けてしまう」「お酒をやめたいけどやめられない」など、認知的不協和には多くの例が挙げられます。

認知的不協和は、米国の心理学者レオン・フェスティンガーが1957年に刊行した著書の中で提唱され、次のような実験に基づくものでした。被験者である学生に「糸巻きを容器に並べてそれを取り出す」などのつまらない作業を一定数実施してもらった後に、次の被験者に対して「面白い作業だった」と告げるよう指示されます。矛盾したことを告げる謝礼として、「1ドルもらうグループ」と「20ドルもらうグループ」に分け、報酬額によって自身の作業の楽しさが変わるかどうかを確かめました。その結果、報酬1ドルのグループのほうが報酬20ドルのグループよりも評価が高くなりました。

これは「つまらない作業だったので20ドルもらうのは当然」と納得できた20ドルグループに対して、1ドルグループは「このつまらない作業で1ドルしかもらえないのか」と矛盾を感じたため、「作業自体が面白いものだった」と自分の思考を変えることで矛盾を解消しようとした結果だと言われています。このように認知的不協和は、対象物の客観的事実とは異なった評価を下してしまうような「認知バイアス」の原因の1つとなるものです。

認知的不協和のマーケティングへの応用

認知的不協和のマーケティングへの応用は、認知的不協和による違和感をあえて与えて消費者の注目を集めるような方法と、逆に認知的不協和をできるだけ起こさせないような施策を講じるような方法と、大きく2種類の応用方法があります。前者の認知的不協和による違和感をあえて与えて注目を集める方法は、主にキャッチコピーにおいて活用されます。

「出世したいなら上司にイエスと言うな」

「遊びながら学ぶ方法」

「おいしい料理は時間をかけて作らない」

「好きならやめろ」

などのような一般的な認知内容と少し異なったコピーを提示することで、違和感を持ちながらもどんなものか知ってみたい、という興味を引くことができます。もちろん矛盾度合いや違和感が度を越すと反感を買うだけになってしまいますので、注意が必要です。

認知的不協和をできるだけ起こさせないような施策は、例えば消費者が商品購入前に「気に入ったスカートがあるけど自分には少し若すぎる」と感じてしまい、「購入に踏み切れない」という矛盾(認知的不協和)を抱えていると想定される場合に、対象者の年齢でも十分違和感のないことを訴求したり、反対に対象者の年齢に合う新商品を開発したりすることで認知的不協和を解消し、購入に結びつけるという方法です。同様の矛盾は、「年齢に合わない」の他にも「効果があるか分からない(だから購入に踏み切れない)」「自分に使いこなせるかどうか分からない(同上)」などさまざまなパターンが考えられます。

おとりを使って選択肢を誘導する「おとり効果」

「おとり効果」とは、複数の選択肢の中に他の選択肢よりも明らかに評価が劣るものを入れておくことで、選択者の意思を変化させる心理効果のことを言います。通常は、より望ましいものを選択させたり、何も選択しないようなことを防いだりする場合に利用されます。

おとり効果は、マサチューセッツ工科大学のダン・アリエリーらが次のような実験によって明らかにしました。学生に対して英国の経済誌「エコノミスト」の定期購読メニューを、「1.Web版のみ:59ドル」「2.Web版+冊子:125ドル」の2種類を設定し選んでもらったところ、2を選択した学生は32%でした。これに「冊子のみ:125ドル」という選択肢を加えたところ、2(Web版+冊子:125ドル)を選択する学生が84%にまで増加しました。お分かりのように明らかに条件が悪くて同じ金額の「冊子のみ:125ドル」を加えたことで、2の「Web版+冊子:125ドル」が、前の2択の時よりも良い条件だと感じられたからだと考えられます。

おとり効果のさまざまな応用

おとり効果は、上記の実験例のように実際の販売時点で応用するのが効果的でしょう。雑誌の定期購読だけではなく、月額会費制や月額定額のいわゆるサブスクリプションサービスなどに幅広く応用できます。もちろん月額サービスだけではなく通常の製品にも応用できますが、消費者が落ち着いて比較選択できる環境がなければ効果が薄くなりますので、しっかりと店頭やEC上サイトなどで掲示する必要があるでしょう。

BtoBの場合でもおとり効果は有効に働きます。例えば顧客への提案時の選択肢にA、B、Cの複数のメニューを用意しておき、そこにおとりを含ませることで、最も採択されたいメニューを際立たせる、という方法が使われます。また、おとり効果と逆の発想でより高品質だが高価格な選択肢を与えることで「中間の選択肢」を選ばせる、という手法も頻繁に使われています。「松竹梅の法則」などと呼ばれ、飲食店のメニューで「松:低価格、竹:中価格、梅:高価格」の3択にすると中間の竹メニューが最も選ばれるというものです。

まとめ

●認知的不協和は、普段私たちが認識しているものと矛盾する考え方などにストレスを感じる心理効果のこと

●あえて認知的不協和を感じるようなキャッチコピーによって消費者の注目を集めたり、反対に認知的不協和を解消する情報を提供するなどして安心感を与えたりするような応用が考えられる

●おとり効果は、選択肢の中に「おとり」を置いておくことで、選択者の意識を変化させる効果のこと

●あえて条件が悪い選択肢を置くことで、消費者の選択を他の選択肢に誘導するなどの応用が考えられる

認知的不協和やおとり効果をマーケティングなどに活用する際は、少し微妙な表現が必要な場合もあります。しかしあまり考えすぎて凝ったものにし過ぎると却って消費者が分かりにくくなってしまうこともあるかもしれません。できるだけそれを見た人が分かりやすく、すぐに理解できるような表現や内容にしておくかがポイントです。

  • マーケティングオートメーションツール選定ガイドブック