たまには人の優しさにすがってみたい! 返報性の理論とアンダードッグ効果

マーケティングでは消費者の欲求に着目した施策が多く実施されています。しかし今回ご紹介するのは、人の優しさにフォーカスした返報性の理論とアンダードッグ効果という心理効果を応用したもの。どのような心理効果でどう応用ができるのか、順を追って説明していきます。ぜひ参考にしてください。

たまには人の優しさにすがってみたい! 返報性の理論とアンダードッグ効果

マーケティングでは消費者の欲求に着目した施策が多く実施されています。しかし今回ご紹介するのは、人の優しさにフォーカスした返報性の理論とアンダードッグ効果という心理効果を応用したもの。どのような心理効果でどう応用ができるのか、順を追って説明していきます。ぜひ参考にしてください。

受けた好意は忘れない返報性の原理

返報性の原理とは

返報性の原理とは、誰かから好意などを受けた場合にその相手にお返しをしたいと感じる心理作用です。心理学者デニス・リーガンが行った次の実験が有名です。

絵画鑑賞をするという設定で2人1組になってもらい、それを2組で行います(絵画鑑賞自体には特に意味はありません)。休憩時間中に1人が部屋を一旦出て飲み物を買ってきますが、一方の組は自分の飲み物だけを購入。もう一方の組は、特に頼まれていなくても相手の飲み物も買ってきてあげます。

そこで小さな親切をしておくと、その後相手に「景品が当たるくじ付きチケットを何枚でもいいから買ってほしい」と頼むと、後者のほうが2倍のチケットを購入してくれるという結果になりました。もらった飲み物の5倍程度の金額になります。この好意は相手に対する好感度とは無関係に単に「親切にされた」ことに対する返礼として作用することが分かっています。

返報性の原理は、相手の好意に対してだけではなく、敵意や譲歩、情報開示に対しても作用します。好意と同じ原理で、敵意を見せられた相手には敵意を見せたくなり、何かを譲ってもらった場合には、今度は自分が譲ってあげようという感情が働きます。また、自分のことを気軽に話す相手に対しては自然と自分のことも話してしまうことが多いのも返報性の原理によるものです。

返報性の原理のマーケティングへの応用

返報性原理のマーケティングへの応用例には次のようなものがあります。

無料サンプルや試食

返報性原理の代表的な応用例は、無料サンプルや試食です。もちろん実際の使い勝手や味を試してもらうという目的もありますが、無料で利用させてもらった好意に対して返報性の原理が作用して「せっかくだから少し買っていくか」というような心理効果も狙っています。

初回購入割引

上記と同様に、割引という好意に対して「自分も何か返さなくては」という心理が無意識に働くことで、その後の継続購入に結びつく可能性が高くなります。

手土産などの持参

マーケティングよりも営業活動で多く使用する手法ですが、交渉相手を訪問する際に手土産を持参することで、こちらの話を聞いてもらいやすくなります。これもこちらの好意に対して返報性の原理が働く結果です。

最初に高い要求をする「ドア・イン・ザ・フェイス」

最初に相手に断られるような高い要求をしておいて、その後に本来の要求をするのが「ドア・イン・ザ・フェイス」呼ばれる手法です。例えば本来は5個セット5千円の商品を売りたくても、あえて「今なら10個セットで8千円のお得なセットがありますよ!」とアプローチします。「そんなにたくさんいらない」と断らせておいて、「それなら5個なら5千円のものもあります」とこちらが譲歩を示すことで返報性の原理が働き、相手も譲歩して購入するケースが増えるというわけです。

弱いものに同情・共感を誘うアンダードッグ効果

アンダードッグ効果とは

アンダードッグ(underdog)は、元々「かませ犬」や「負け犬」などを表す単語で、そこから転じて「勝ち目のないチームや人」を表すようになりました。アンダードッグ効果とは、不利な状況や負けそうなチームなどを思わず応援したくなる心理効果を言います。日本では特に「判官びいき」として知られている心理効果です。経済学者ライベンシュタインによって提唱されました。

最初は選挙戦において、事前予想で劣勢に立っている候補者が、有権者の同情などによって票を集め、予想以上の得票を獲得する現象を指していましたが、現在では上記のような判官びいき的な意味を持っています。ハーバード大学で行われた実験では、「やる気が十分だがなぜか業績が上がらない企業」と「何の努力もしていないのに業績だけは良い企業」と、どちらの企業の製品を購入したいかを尋ねたところ、前者の企業の製品により多く支持が集まりました。

アンダードッグ効果のマーケティング応用例とポイント

アンダードッグ効果をマーケティングへ応用する際は、自社の弱さや失敗などを公表することで、自社を応援してもらうように働きかけます。近年多いのが、「誤発注によって大量の在庫を抱えてしまった!」とSNSに投稿して、購入促進する方法です。他にも、「思うように商品が売れない」「競合店ができたためお客さんが極端に減った」などの、逆境を公表することでアンダードッグ効果を狙うことが可能です。

上記のような現在の事業の状態ではなく、「当社は小さい会社なので大量に販売することはできませんが…」や「田舎の店なのでインスタ映えするような料理はお出しできませんが…」など、そもそも自らが弱い存在だということを前面に出しながら訴求する方法も執られます。

しかし、何でもよいから同情さえ誘えばアンダードッグ効果が現れるかといえばそうではありません。その効果が発揮されるためには以下のような条件が必要です。

・現在の悪い状況を改善しようと努力している

いくら困窮していても、何も努力しない相手に対して応援しようという気にはなれないものです。「努力したけどダメだった」ということを伝えることが必要です。

・ある程度普段の状態を知ってもらっている

知らない店や企業のことを応援しようとはあまり思わないものです。アンダードッグ効果は、普段からお付き合いのある顧客や地域の住民の方など、より近しい相手を中心に展開すると効果的です。

まとめ

●返報性の原理とは、人から受けた好意を返したくなる心理効果

●無料サンプルや初回割引、手土産、ドア・イン・ザ・フェイスなどとして応用されている

●アンダードッグ効果とは、弱い対象を応援したくなる心理効果

●自社の失敗や弱みをあえて公表することでアンダードッグ効果を期待できる

返報性の原理もアンダードッグ効果も「人の善良さ」に起因する心理効果です。従って、善意を悪用するような使い方をして、社会的反感を買わないように注意しましょう。

  • マーケティングオートメーションツール選定ガイドブック