「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の2つの言葉が意味するもの

新製品開発のアプローチ手法としてよく比較される「プロダクトアウト」と「マーケットイン」。これらは、特に新製品開発に関わる人間にとっては、普段何気なく考えているよりも深くて重要な意味を持つキーワードです。そこで今回は、それぞれどのような意味を持ちどのように捉えれば良いのかを考えてみましょう。

「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の2つの言葉が意味するもの

新製品開発のアプローチ手法としてよく比較される「プロダクトアウト」と「マーケットイン」。これらは、特に新製品開発に関わる人間にとっては、普段何気なく考えているよりも深くて重要な意味を持つキーワードです。そこで今回は、それぞれどのような意味を持ちどのように捉えれば良いのかを考えてみましょう。

プロダクトアウト、マーケットインとは

まず始めに、プロダクトアウトとマーケットインのそれぞれの用語の意味を確認しておきましょう。

プロダクトアウトとは、製品を開発、生産する企業側の考え方や理論で製品を開発することです。「企業が良いと思ったモノ」、「売れると思ったモノ」、「作りたいと思ったモノ」を開発、生産し販売することになります。

主に新しい技術を用いた工業製品に適用されてきました。例えば電子レンジなどがプロダクトアウト型の製品の典型的な例です。近年のITを始めとした先進テクノロジーを駆使した製品なども、プロダクトアウトアプローチから生まれている場合があります。

代わってマーケットインとは、消費者や市場のニーズを的確に把握した上で、そのニーズに従って製品を開発する方法です。「消費者が望むモノ」、「市場が要求しているモノ」を開発することになります。

現在の製品開発では主流となっているアプローチ方法ですので、多くの製品がこの手法で開発されています。マーケットインのアプローチを成功させるためには、消費者や市場のニーズを正確かつ客観的に把握するための、事前の情報収集や調査・分析がポイントになります。

プロダクトアウトの時代からマーケットインの時代へ

そプロダクトアウトは、作ればモノが売れる時代、大量生産の時代に適した手法であると言われています。高度成長期を中心とした1960年台からその終焉を迎える1980年台頃までに有効であったとされます。この時代は、いわゆる家電品の三種の神器を始めとしたさまざまな新しい家庭用製品が生み出されました。

経済成長の鈍化と共に、いわゆる「モノが売れない時代」が到来しました。経済成長の鈍化自体がその大きな要因の1つであると考えられます。しかしその他にも、モノが充足してきたことによって消費者のモノを見る目が養われてきたことや消費者の嗜好が多様化してきたこともその要因として考えられています。さらに、テクノロジーの成熟によって画期的な新製品の開発が困難になってきたことも、モノが売れなくなった要因でしょう。

そのような「モノが売れない」課題を解決するために発生してきたのが、顧客志向を標榜する”マーケティング”です。「何を作れば売れるのが分からない、だったら顧客自身に何が欲しいか聞いてみよう」というのがマーケティングのそもそもの発想です。

ここでは具体的なマーケティング手法や消費者の嗜好を知るためのリサーチの方法などに関しては割愛しますが、マーケティングの考え方や手法によって、各企業はどのような製品を作ればよいのかの回答を得ることができました。そして、その答えに従って製品の開発方法や製造方法の修正が行われました。

このようにプロダクトアウトからマーケットインに転換することによって、モノが売れない時代という課題を解決することができました。

再び見直されるプロダクトアウト

経済成長期の「作っては売れる時代の手法」であると批判的な目で評価されがちなプロダクトアウトですが、その時代はそれだけ新しい技術が生まれる時代であったということも言えます。しかし徐々に技術が成熟し、画期的な技術がそうそう生まれなくなってきたことで、プロダクトアウトアプローチが適用できる機会が減ってきたことが、批判される要因となりました。

しかし、「消費者の求めるモノ」を開発するということは、逆に言うと「消費者の求めるモノ」しか世に出ないことになります。すなわち、「消費者が気付かないモノ」、「今までは思いもよらないモノ」は基本的にマーケットインからは生まれません。これでは、今モノは売れても新たな市場を形成することはできません。そこで再度見直されているのが、プロダクトアウトの手法です。

一概にプロダクトアウトといっても、まったく消費者のことを無視して開発されるケースは現実的にはあまり考えられません。表層に現れたニーズではなく、消費者の真の要求や動機である「顧客インサイト」などを調査、把握して開発される場合もあります(一種のプロダクトアウトとマーケットインのミックスアプローチとも言えます)。

マーケットインは、いわば「確実に売れるモノを見つけて売る」という方法ですが、プロダクトアウトは「確実に売れるかどうか分からないが、売れると新たに大きな市場を形成するモノを作り出す」という意味合いになります。つまり、新たな市場を形成する訳ですから、ハイリスク/ハイリターンの手法と言えます。しかしこのようなアプローチがなければ、中長期的な市場活性化は難しいでしょう。

プロダクトアウトの例

プロダクトアウトの代表的な例としてよく取り上げられるのが、SONYのウォークマンです。開発時には社内での批判が多かったようですが、ご存知の通り大ヒットしました。単にウォークマンという製品がヒットしただけではなく、ポータブル音楽再生機器という一大市場を新たに作り出しました。そしてウォークマンの登場によって、単にAV機器の新市場を形成したという以上の意味があります。現在主流になりつつある、ダウンロードからストリーミングに至るその後の音楽産業全体のあり方を変える要因の1つにもなったのではないでしょうか。(もちろんその変化の要因はウォークマンだけではありません)

また、近年最もインパクトのあるプロダクトアウト手法を見せつけられたのは、やはりAppleのiPhoneでしょう。「誰も思いつかなかったモノ」、言い換えると「誰も欲しいとは思っていなかったモノ」を世に送り出すことにより「電話を再発明する」ことに成功したiPhoneは、単に電話のあり方を変えただけではなく、通信ネットワークやITサービス系産業を始め、多くの産業に影響を及ぼしています。iPhoneがなければ、例えば今日言われるIoTという言葉も生まれてこなかったかもしれません。

このようにプロダクトアウトはハイリスクではあるが、新たな市場を形成することができ、長期的な市場活性が可能であること、また、産業構造までをも変えてしまう潜在的な力があることは忘れてはいけません。しかし、プロダクトアウトで成功するためには、やはりしっかりとした事業のリスクの管理や、プロダクトアウトアプローチに適した事前の調査や準備が必要であることは言うまでもありません。

まとめ

  • プロダクトアウトとは、企業が良いと思ったり売れると思う製品を開発し販売することである
  • マーケットインとは、消費者が望む製品を世に出すことである
  • マーケットインは消費者の望むものを提供して市場を拡大させることができるが、プロダクトアウトは新たな市場を形成することが可能である

プロダクトアウトとマーケットイン。「どちらが正しいのか」や「どちらが良いのか」の議論にはあまり意味がありません。肝心なのはどのような目的でどちらのアプローチを選択するかということです。しかし根本的な考え方は、いずれも広い意味での「顧客主義」であることには変わりありません。

  • マーケティングオートメーションツール選定ガイドブック