どうすれば優良顧客は増えるのか? その答えは「CRM」にある
CRMは、マーケティング戦略を考える上で最も基本的で重要な考え方の1つです。
さまざまな領域で適用できるCRMですが、今回はその基本的な考え方や実践方法について解説します。
この記事の目次
CRMは、マーケティング戦略を考える上で最も基本的で重要な考え方の1つです。
さまざまな領域で適用できるCRMですが、今回はその基本的な考え方や実践方法について解説します。
CRMとは?
CRMとは、Customer Relationship Managementの略で、長期的な視点で顧客との関係を構築し、自社製品やサービスなどの利用促進を図って利益向上を達成しようとする考え方または施策です。1998年に米アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)から出版された『CRM─顧客はそこにいる』で一躍世に広まった言葉です。
具体的には、顧客のさまざまな情報を一元的に管理、分析し、それに基づいて一人一人の顧客の満足度を向上させ信頼を獲得。それにより長期的に良好な関係を構築し、顧客の自社に対するロイヤルティを上げて自社にとって優良顧客にすることを目的とします。
現在、インターネットやSNSなどの普及に伴って、CRMの方法論も変化してきていますが、考え方は1998年当時とそれ程変わりありません。CRMが注目されてきたのには、次のような背景があります。
消費者ニーズの多様化によるマスマーケティングの限界
高度成長期を終えてテクノロジー革新のスピードも鈍化。消費者全体が経済的に豊かになりました。さらに、情報化が進むにつれて消費者のライフスタイルが多様化し、求めるニーズも千差万別になってきました。
このような市場状況に対応するためには、消費者を比較的大きなセグメントで捉える従来の「マスマーケティング」だけでは顧客像を十分には捉えられず、マーケティング効率が低下してきました。
そこで注目されたのがOne to Oneマーケティングやパーソナルマーケティングなど、消費者を個々で捉えようとするマーケティング手法です。顧客一人一人の状況に従って、関係構築を図ろうというCRMの目的が、このような考え方と共通点が多いため、CRMが注目される背景の1つになっています。
新規顧客と既存顧客とのマーケティングコストの差
新規顧客に製品を販売するには、既存顧客に販売する場合と比較して5倍のマーケティングコストがかかると言われています。1:5の法則などと呼ばれるものです。
一般的に、これまで取引実績の無い企業に対しては、信頼性やロイヤルティが低いために、購入時の心理的障壁や、他社製品から切り替える際のスイッチングコストが高くなるからです。
もちろん新規顧客を獲得していかなければ事業の継続は困難です。しかしCRMの考え方のように既存顧客との関係に着目してさまざまな施策を講じていくことが、効率良く事業を維持・拡大することにつながると考えられます。
プロダクトアウトからマーケットインへ
消費者ニーズの多様化や、インターネット・SNSの利用拡大などの影響によって、消費者の市場に対する影響力が増しています。以前のような技術革新の頻度が高い時代においては、消費者の利便性向上に直結する新製品を世に送り出すことは比較的容易でした。
しかし現在はIT関連以外の技術革新のスピードが鈍化してきているために、「作れば売れる」時代ではなくなりました。いわゆるプロダクトアウトからマーケットインに新製品開発の主軸が取って代わられることになりました。
そのような状況下で、市場への影響力が高まってきた消費者との関係を構築して、市場での優位性を獲得しようとするのがCRMの考え方です。
CRMの進め方
実際のCRM施策の内容は、各企業の事業ビジョンや事業計画、市場状況や周辺技術動向などさまざまな要因によって異なります。ここでは一般的なCRM施策のフレームワークとしてどのように進めれば良いのかを見てみましょう。
「顧客接点」と「情報」の精査
顧客との接点にはどのようなものが存在するか、存在し得るかを整理します。例えば、店舗、営業パーソン、代理店、コールセンター、自社Webサイト、他社Webサイト、SNSなどが考えられます。
さらに、顧客を軸としてどのような情報が得られているか、また得ることができるかを精査します。こちらは例えば顧客の年齢・性別などの属性情報や購買履歴、コールセンターへの問い合わせ履歴、Webサイトへのアクセス履歴、展示会やセミナーなどの参加履歴、クレーム情報などさまざまなものが考えられます。
情報分析と顧客識別
精査した接点と情報を元にして、どのような顧客が自社に最も多く利益をもたらすか、自社にとっての「ロイヤルカスタマー像」を浮き彫りにします。
単に購買額が大きかったり購買頻度が高い顧客がロイヤルカスタマーとは限りません。最も自社にとって都合の良い顧客は、最小のコストで最大の効果を生み出すことができる顧客ですが、顧客は単に「商品を買ってくれるだけの都合の良い存在」ではありません。一人一人個性ある人格として尊重しなければ自社に対するロイヤルティを持ってもらうことはできません。
そのような意味で、顧客の自社への貢献度(売上等)と、接点におけるコミュニケーションなどの状態(どの設定でどのようなコミュニケーションを取っているかなど)と合わせて真のロイヤルカスタマーの姿を浮かび上がらせる必要があります。もちろんロイヤルカスタマー像は1つとは限りませんので、顧客のタイプ分類やランク付けなども同時に行っていきます。
施策立案・実施・検証
前段の分析などによって明確になったロイヤルカスタマー像に従って、その状態へ顧客を近づけるための施策を、仮説に基づいて立案します。施策は短期的なものと長期的なものの双方の視点で立案するのが良いでしょう。
実施後は検証を行い、次の施策へフィードバックすることで施策精度を上げていきます。
CRM成功のポイント
CRMを成功させるためのポイントには次のようなものがあります。
顧客情報の一元化
「顧客」を中心にさまざまな施策を立案していきますので、顧客情報は相当精度の高い名寄せなどを実施して、「1顧客:1データ」状態を維持する必要があります。
顧客は必ずしも「過去にも取引があったかどうか」を企業に申告するとは限りません。従って顧客から申告が無いからといってその都度新たな顧客として登録していては、1顧客:1データの状態は維持できません。
店舗とWebサイトなど複数のチャネルで接点がある場合は特に注意が必要です。顧客データを管理するために、何らかのCRMシステムを導入するという選択も検討すべきです。
チャネル側の統合
上記の通り、顧客1人を1データとして保持することは非常に重要ですが、顧客との関係構築を行っていく際には、顧客からみた自社を常に同じ企業として認識させることも重要です。これは上記と同様に、主に店舗やWebサイト、代理店など複数のチャネルで接点が存在する場合に注意すべきことです。
例えば「このWebサイトは、私がいつも行くあそこのお店のサイトだ」ということを明確に認識させなければなりません。逆に複数ブランドを使い分けている場合は、ブランドが混同しないような工夫が必要になるでしょう。社名やブランド、製品名、ブランドロゴなどをうまく活用すると共に、自社や自社製品のブランディングを行う必要もあります。
短期的な成果のみに目を奪われない
企業として今月や今期の利益目標を達成することは最も重要なミッションの1つです。しかし短期的な成果のみを追っていたのではCRM施策は成功しません。上記でもお話しした通り、CRMは自社にとってのロイヤルカスタマーを増やしていくような施策ですが、1度や2度の施策では大した成果は上がりません。
中長期的に多くの施策を試行錯誤しながら実施していくことで、ロイヤルカスタマーは徐々に増えていき、最終的にマーケティング効率が向上し、それ程コストをかけなくても売上・利益が一定以上上がるようになります。従って短期的な売上・利益獲得施策と中長期的なCRM施策をうまく組み合わせて実施していくことが必要になります。
まとめ
- CRMとは、顧客の情報を一元的に管理し、個々の顧客との関係を構築することで優良顧客化することを目的とした考え方・施策のこと
- CRMの施策は、顧客情報の分析によってロイヤルカスタマーの特性を抽出し、ロイヤルカスタマー化の施策を立案・実施することで進める
- CRM施策を成功させるためのポイントは、顧客情報を高精度で一元化すること、チャネル側の自社の見え方を統合すること、そして短期的な成果のみを追わないこと
CRMの考え方は、1990年代から現在までさまざまなシーンで用いられて、その考え方は広く浸透しています。特に顧客情報の収集が容易なWebマーケティングの領域とは相性が良いために、今後さらにその考え方は形を変えながらでも活用されていくことになるでしょう。