新製品のネタはどこから仕入れる? ニーズとシーズによる製品開発

何もないところから新製品を生み出すことはできません。新製品開発の素材や元ネタとなるものにはニーズやシーズがあります。ニーズ、シーズとはそれぞれどのようなもので、それを元にどのように新製品が生まれてくるのかについて解説します。

新製品のネタはどこから仕入れる? ニーズとシーズによる製品開発

何もないところから新製品を生み出すことはできません。新製品開発の素材や元ネタとなるものにはニーズやシーズがあります。ニーズ、シーズとはそれぞれどのようなもので、それを元にどのように新製品が生まれてくるのかについて解説します。

ニーズとシーズ

ニーズとは

ニーズとは、消費者が生活上の特定のシーンで具体的に必要と感じるもの、またはその必要性のことを言います。例えばテニスをする場合には、ラケットが必要になりますし、ドライブをするには自動車が必要です。また、生きていくためには食べ物や住居などが必要です。これらの必要性がすなわちニーズです。

ニーズは個々の消費者の状況によって異なります。風邪をひいて症状がひどい場合、風邪薬は今すぐにでも必要と感じますが、健康な人には必要ありません。このようにニーズとは、特定のシーンでは必ず必要になるものではありますが、個々人や状況によってさまざまに変化するものです。

ニーズからウォンツへ

消費者が購入する製品やサービスを選ぶ場合、ニーズ(必要性)だけで選ぶのかと言えば現実的にはそうではありません。

再度自動車を例に出します。ご存知の通り世の中には多くの種類の自動車が存在します。もちろんその中には今自分に必要のないトラックや、高価過ぎたり納車までの期間が長すぎたりして選択候補にはならない車種も沢山あります。仮にそういった車種を除いても、依然多く車種が購入候補のリストに残るはずです。

そのような「どれを選んでも必要性は満たされる」複数の選択肢がある中で、実際に消費者が「これ!」と特定の車種を選ぶ理由が、「ウォンツ」です。

実際に購入する際には、「こちらの方がカッコいい」、「走りがいい」、「内部がゆったりしている」などデザインや燃費、操作性や居住性などさまざまな基準で比較することになるでしょう。

そのような「モノや人を速やかに運ぶ」という従来の自動車の必要性とは直接には関連性のない、さまざまな消費者の欲求がウォンツです。

シーズとは

一方シーズとは、企業がすでに持っているか、または新たに手に入れた新しい技術やアイデア、ビジネスモデルやサービスモデルなどのことです。これまで存在しなかった新素材や、従来のものと桁違いの解像度を持つ画像モニター、今までになかったような新たなシェアリングサービスのアイデアなどがシーズの例です。

シーズは、仮にそれが実際に製品化された場合、世の中を変える程の大きなポテンシャルを持つものから、世に出てもほとんど見向きもされないものまで、さまざまなレベルがあります。製品化された場合にヒットするか否か、それを決めるのは結局前述のニーズとウォンツなのですが、シーズが単にニーズやウォンツの対象物にすぎないのか、といえばそうとも言えません(詳しくは後述します)。

ニーズ志向とシーズ志向による製品開発

ニーズとシーズがどのように製品開発の素材や元ネタになるのか? もうお気付きかとは思いますが、それぞれマーケティング戦略的な内容も含めてご説明すると次のようになります。

消費者の欲しいものを作り出す「ニーズ志向」

ニーズ志向による製品開発とは、消費者の必要性にスポットを当てて製品開発をすることです。ニーズはさまざまなシーンで発生する必要性ですので、ニーズ志向による製品開発とは消費者が必要とするものを作り出すこととも言えます。

例えば、家庭の庭木の剪定は素人では危険ですが、かといって専門家に頼むのもコストがかかります。素人でも気軽に庭木の剪定ができる器具として高枝切り鋏が売り出されてヒットしました。高枝切り鋏の開発/生産にはそれほど高度な技術が必要ではありませんが、消費者のニーズを的確に掴んだことでヒット製品になったと考えられます。

製品開発にまつわる消費者のニーズの把握は、メディアなどで「偶然○○しているところを見て思いつきました!」などのエピソードで語られる時がありますが、そういった「偶然の発見」は文字通り偶然であり稀なケースです。

消費者のニーズを的確に把握することは簡単なことではなく、例えば、いつ、誰が(どのような人が)、どのようなシーンで、どのような必要性を感じるかを発見するために、さまざまなマーケティング調査を実施し、さらに分析した結果初めて把握できるものです。(マーケティング調査の詳細は割愛させていただきますが、統計的な調査や消費者へのアンケート/インタビュー、行動観察などを始めさまざまなものがあります。)

競合する同カテゴリーの製品がない場合は、ニーズの把握のみで製品開発も可能ですが、競合製品がある場合は、それらが並ぶ中で自社製品を最終的に選んで貰う必要がありますので、ウォンツを把握する必要が出てきます。自社が市場を独占できる機会はあまりありませんので、ウォンツの把握が必要なケースの方が一般的でしょう。

高枝切り鋏を購入する消費者層は、どのような理由や基準で最終的に製品を選ぶのか? より軽いものか? 太い枝でも楽に切れるものか? それとも価格が重視されるのか? 実際に購入するターゲット層がどのような嗜好や価値基準、こだわりを持っているのかをウォンツの形で把握することで、消費者に選ばれる製品を作り出すことが可能になります。ウォンツの把握も、ニーズと同様にさまざまなマーケティング調査を駆使する必要があります。

見えない欲求を形にする「シーズ志向」

ニーズやウォンツは消費者が自覚しているものと自覚していないものがあります。単にニーズやウォンツと言う場合、通常は消費者が自覚しているもののことを言い、それらは「顕在的なニーズ」や「顕在的なウォンツ」と呼ばれます。ニーズ調査などで把握できるのは、これらの顕在的なものです。

一方、ニーズやウォンツには消費者自身も気が付いていないもの、人に言われて「ああ、それが必要だったんだ、それが欲しかったんだ!」と初めて分かる種類のものがあります。それらは「潜在的なニーズ」や「潜在的なウォンツ」というものです。それらの潜在的なニーズやウォンツが、シーズ志向の製品開発の際に重要になります。

「消費者は何が欲しいかはそれを見せられるまで分からない」というのは、かのスティーブ・ジョブズの言葉です。それは正に潜在的なニーズやウォンツのことを言っているのであり、シーズ志向による製品開発はそのような「消費者自身も気が付かないニーズやウォンツ」を消費者に「見せる」ことです。

シーズとは、新しい技術やアイデア、ビジネスモデルやサービスモデルなどのことと申し上げましたが、シーズを使って製品開発するためには、それらが消費者の潜在的ニーズなどの満たすことが条件となります。しかし、潜在的ニーズは表に現れていないものですので、顕在的ニーズと違ってマーケティング調査ではなかなか把握できません。

調査や分析である程度推測や類推はできるものの、最終的には製品開発担当者やマーケッターなどが判断することになります。従ってそのシーズによって開発した製品が潜在的なニーズやウォンツにマッチするか否かの判断には、ニーズ志向の場合よりもより高度なスキルが必要であると言っても良いでしょう。

このように、シーズ志向による製品開発は、ニーズ志向と比較してより大きなリスクを伴うものです。しかし、その分ヒットすれば新たな市場を創造することになり、自社にとって大きなメリットをもたらします。

シーズ志向で留意しなければならないことは、画期的な技術やアイデアが必ずしも優れた製品につながるとは限らないという点です。どれだけ優れた技術を用いても、潜在的なニーズやウォンツを満たすことがなければ消費者に受け入れられることはありません。

まとめ

  • ニーズとは消費者が感じる必要性のことを言う

  • ウォンツとは実際に製品を購入/選択する際の基準となる消費者のさまざまな欲求のことを言う

  • シーズとは製品開発の元ネタになる企業が持つ新しい技術やアイデアなどのことを言う

  • ニーズ志向製品開発は、事前にニーズやウォンツを把握しそれらを満足させる製品を開発すること

  • シーズ志向製品開発は、自社の有する技術やアイデアを元に、消費者自身も自覚していない隠れたニーズに気づかせるような製品を開発すること

ニーズ志向はミドルリスク・ミドルリターン的な開発手法、シーズ志向はハイリスク・ハイリターン的な開発手法だといえます。どちらが適しているのかは、自社や市場の状況、競合の状態などによって変化します。ニーズ志向の方がアプローチしやすいためによく用いられますが、それだけでは市場における自社のイニシアチブを失ってしまうかもしれません。

自社の事業戦略なども考慮してどのようなアプローチが適しているのかを判断するべきです。

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