すべてのチャネルを統合する『オムニチャネル』で、販売力とブランド力をアップさせる

セブン&アイが本格的取り組むことを発表したことで、ようやく日本でも大きく注目を集めるようになった「オムニチャネル」。今回はオムニチャネルとはどういうもので何を目指すものなのか? について解説します。

すべてのチャネルを統合する『オムニチャネル』で、販売力とブランド力をアップさせる

セブン&アイが本格的取り組むことを発表したことで、ようやく日本でも大きく注目を集めるようになった「オムニチャネル」。今回はオムニチャネルとはどういうもので何を目指すものなのか? について解説します。

オムニチャネルとは

「オムニチャネル」とは、店舗やECサイトなどのさまざまなチャネルにおいて、商品や流通、そして顧客情報などを一元化することにより、それぞれのチャネル間の相乗効果を最大化することを狙いとした施策のことです。これにより自社商品の販売力強化やブランド力向上を目指します。

このオムニチャネルは、商品や在庫などの「モノの一元化」と、顧客情報などの「情報の一元化」によって実現します。具体的には次のような事柄です。

取扱商品や在庫/流通経路の一元化

店舗やECサイトなどのすべてのチャネルで取り扱う商品を統一し、販売商品や在庫、流通経路を同一にする。

顧客情報や接点情報の一元化

コールセンターやECサイト、実店舗やSNSなど、異なるチャネルでコンタクトしても同じ顧客として取り扱えるように顧客情報を統合し、同じ顧客のあらゆる行動や接点情報が一元的に管理されている。

なぜオムニチャネルなのか?

なぜオムニチャネルが必要なのか? どのような理由でオムニチャネルという発想が生まれてきたのか? 少しその背景を見てみましょう。

既存の店舗販売の課題

オムニチャネルを最初に提唱されたのは、2010年頃にアメリカの老舗百貨店「メイシーズ(Macy’s)」が最初だと言われています。ご存知のようにインターネット通販などの台頭により、既存の流通業者、特に百貨店のように専門性が低く何でも揃ういわゆる「総合流通業」は売上不振に見舞われます。

「店舗のショールーム化」という現象がそのような状況を象徴しています。店舗のショールーム化というのは、店舗で実際の商品の使い勝手やデザイン、機能などを確認した後に、価格が安いネット通販で購入する、という消費者行動のことです。

ネット通販側の課題

一方、インターネット通販は売上を堅調に伸ばしていましたが、実際に商品に触れることができないなどの購入体験上の弱みがありました。実店舗に比べて、買うこと自体を楽しむことが難しいネット通販では、ややもすれば価格競争に陥ってしまい、消耗戦を強いられることが多くなってきます。

マーケティングコミュニケーション上の課題

インターネットの普及がネット通販の台頭の要因とはなっていますが、さらにスマートフォンなどのモバイル端末の普及が、消費者と企業の接点のあり方に変化を及ぼしています。実際のリアル店舗での接点に加えて、PCやスマートフォン、タブレットなど消費者自身が多くのチャネルを使い分けることが普通になってきています。

このような接点の多様化により、企業はどの設定がどの顧客なのか?の認識が難しくなってきています。そしてそれがパーソナデータに基づいたマーケティング活動が難しくしています。パーソナルデータに基づいたマーケティングが難しいということは、マーケティング精度が落ちるということ、すなわちマーケティングコストが上昇するということにつながります。

このような課題を克服するために考えられた戦略がオムニチャネル戦略です。

オムニチャネルによって何が変わるのか?

それではオムニチャネルは具体的にどのようなメリットを生み出すのでしょうか。例を上げて見てみましょう。

在庫の一元化によって、販売機会損失を減少させることができる

在庫自体をすべてのチャネルで一元化し、どこからでも照会できるようなっていれば、店舗やチャネルごとに在庫切れを起こす確率が低くなり、品切れによる販売機会損失を減少させることができます。また一時的な品切れを起こしても、別チャネルからの在庫調整がスムーズにできます。

店舗面積を増やすことなく、取扱商品を拡充することができる

実際の店舗でディスプレイできる商品の数には、店舗面積によって限界があります。ディスプレイできない商品は、自社のECサイトの情報を使って接客すれば、展示スペースに制約されずに多種の商品を販売することができます。

店舗とECサイトなどの商品や在庫が統一されており、ECサイトと店舗のデザインコンセプトが統一されていれば、顧客から見れば1つのブランドとして認識されるため、無理なくこのようなことが可能になります。反対にECサイト側から見れば、店舗チャネルを加えることでECサイトだけではできないプロモーション展開や実店舗での購入体験や商品体験を付加することができます。

配送/流通を柔軟に対応することができる

配送や流通が一元化されていれば、店舗で購入した商品を自宅へ直送したり、ECサイトの商品を店舗で受け取ったりするなど、顧客の状況や要求に応じて柔軟に対応することができます。商品を持ち帰らなくても良いということになれば店舗での購入意欲を向上させることにもつながります。

決済の方法を増やすことで、顧客も企業側も利便性が向上する

店舗で購入した商品を自社ECサイトの決済システムを使って支払いできれば、顧客は決済方法の選択肢が増え、レジ待ち時間からも開放されます。また、その場で自社ECサイトでの決済ができれば、「店舗のショールーム化」を防ぐこともできます。

精度の高いマーケティングコミュニケーションを実現できる

店舗や自社ECサイトでの購入履歴やコンタクトセンターなどを含めた多くの接点での対応情報を一元化して、一人の顧客として正しく取り扱うことができるようになると、今まで分断されていたさまざまな情報が統一され、その顧客によりフィットしたコミュニケーションができるようになります。

これにより、顧客から見れば店舗でもECサイトでも常に同じ顧客として接してもらえるようになり、企業側はプロモーションなどの効果が向上します。

オムニチャネルの事例

一言でオムニチャネルと言っても、その企業の状況や課題、独自の発想などによってさまざまな展開方法が考えられます。ここでは比較的有名な事例を参考に見てみましょう。

アメリカの老舗百貨店「メイシーズ」の事例

先ほど触れたメイシーズは、「My Macy’s、Omni Channel、Magic Selling」=MOM戦略というものを発表し、大規模なシステム投資を行って実店舗とECサイトの在庫や顧客情報の統一を行いました。

自社のスマホアプリを大々的に宣伝してインストールさせ、そのアプリから属性データを活用して近くの店舗への来店促進をしたり、店舗は近距離無線通信技術で入店時にそのユーザーにポイント付与したりメッセージの送信を行ったりしました。また、商品に付けられたQRコードを用いて商品の詳しい情報の確認や購入ができるようにもなりました。さらに、実店舗をECサイトの物流拠点とすることで、ECサイトでの注文でも近くの店舗がいつでも対応できるようにしました。

このような、物流や情報を1つにつなぐ施策によって、メイシーズはその後大きく業績を回復することができました。

国内の代表例「オムニセブン」

国内最大手のセブン&アイグループが打ち出したオムニチャネル戦略の柱となるのが「オムニセブン(Omni7)」です。オムニセブンは、セブン&アイ傘下のセブン-イレブンやイトーヨーカドーを始め、西武そごう、ロフト、アカチャンホンポなどが参加するECサイトです。

西武やそごうで取り扱う高級商品から、イトーヨーカドーの日用雑貨まで同じサイトで閲覧、購入ができ、すべて送料無料でセブン-イレブンで受け取ることが可能です。

セブン-イレブンの店舗を生かしたローコストで機動性のある商品流通で競争力を高めることも非常に意味がありますが、セブン&アイが向かおうとしているのは、「店舗のショールーム化」の反対の流れ、ネットで見て店舗で購入する「Webルーミング」を促進することにあります。そのような流れを媒介するメディアとしてオムニセブンというサイトを位置づけているようです。

サイトオープンが2015年11月ですので、成果が問われるのはまだこれからになるでしょう。

まとめ

  • オムニチャネルとは、店舗やECサイトなどで商品や流通、顧客情報を一元化することにより、販売力強化などを目指す施策のこと
  • オムニチャネルは実店舗やネット通販での販売上の課題やマーケティングコミュニケーション上の課題を解決するために考えられた
  • オムニチャネルによって、販売機会損失の減少や取扱商品の拡充、マーケティング精度の向上などのメリットがある

いかがでしたでしょうか? オムニチャネルには、「チャネルの統合」のレベルからさらに上位の「サービスの統合」や「購入体験の統合」までさまざまなレベルがあると言われています。日本ではまだチャネルの統合の段階が始まったばかり。この先さまざまな企業がどのような戦略を駆使してオムニチャネルを進めていくのか、注目しておきたいところです。

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