弱者が強者に挑む!ランチェスター戦略の極意

「柔よく剛を制す」とはよく柔道などで使われる言葉ですが、相手のパワーに対抗したりそのパワーを利用したりして、こちらは自分の抜きん出た技で勝負して勝つ、という意味ですね。

ランチェスター戦略は「強者/弱者の戦略」とも呼ばれることもあり、上記の柔道の場合のように、パワー(規模)で劣る弱者が強大なパワーを持つ強者に挑むための戦略や、逆に強者が弱者を抑えこむ方法が説かれています。

今回はそのような弱者対強者の戦い方を分析した日本独自の戦略理論、「ランチェスター戦略」について詳しく見ていきたいと思います。

弱者が強者に挑む!ランチェスター戦略の極意

「柔よく剛を制す」とはよく柔道などで使われる言葉ですが、相手のパワーに対抗したりそのパワーを利用したりして、こちらは自分の抜きん出た技で勝負して勝つ、という意味ですね。

ランチェスター戦略は「強者/弱者の戦略」とも呼ばれることもあり、上記の柔道の場合のように、パワー(規模)で劣る弱者が強大なパワーを持つ強者に挑むための戦略や、逆に強者が弱者を抑えこむ方法が説かれています。

今回はそのような弱者対強者の戦い方を分析した日本独自の戦略理論、「ランチェスター戦略」について詳しく見ていきたいと思います。

ランチェスター戦略とは

何のためのランチェスター戦略か?

弱者はどのような戦い方をすれば強者に勝てるのか、強者はどのようにすれば弱者を寄せ付けないようにできるのか、その方法について述べられているのがランチェスター戦略です。ランチェスター戦略は元々第一次大戦中にイギリスのエンジニアだったフレデリック・ランチェスターが提唱した軍事的な戦闘の法則です。

そのランチェスターの法則を元にして、日本で独自にビジネス理論に展開されました。ランチェスター戦略の詳しい話し前に、元になったランチェスターの法則について少し見てみる必要があります。

ランチェスターの法則とは?

ランチェスターの法則とは、戦闘の勝敗の行方を決定する軍事理論です。とはいってもそう難しいものではありません。「軍隊の強さ(戦闘力)はその軍隊の武器と兵力数できまる」というもの。

ポイントはそのランチェスターの法則には第1法則と第2法則があるということです。原始的な局地戦、一騎打ちや接近戦などでは「戦闘力=武器装備の良さ×兵力数」できまりますが(第1法則)、より戦場が広域かつ大規模になり、遠隔戦や確立戦も繰り広げられるようになる近代的戦闘ではそれが「戦闘力=武器装備の良さ×兵力数の2乗」になる(第2法則)ということです。

第2法則では兵力数の影響が「2乗」になっているので、近代的な広域戦では「より兵力数がモノを言う」ということですね。この第1法則と第2法則をビジネスに適用したのがランチェスター戦略です。

ビジネス理論としてのランチェスター戦略

ランチェスターの法則をビジネスに適用する場合は「武器装備の良さ」を「質的な経営資源」に読み替えます。それは商品開発力やコスト競争力、また商品自体のブランド力や性能、さらに企業の営業力などさまざまな個別の競争力を意味します。

そして「兵力数」は「量的な経営資源」としてとらえます。すなわち資本力や従業員数、広範囲な営業地域、生産力の大きさなどです。
そして部隊の「戦闘力」は、企業の「競争力」になります。

これで先の第1法則と第2法則を見てみると、

  • 局地戦の場合:「競争力」=「質的な経営資源」×「量的な経営資源」
  • 広域戦の場合:「競争力」=「質的な経営資源」×「量的な経営資源」の2乗

ということになります。

強者と弱者の採用すべき戦略

弱者は局地戦で臨む!

いきなり「弱者」の方から?と思われるかもしれませんが、強者の戦略から話しを始めると少々身も蓋もないことになりますので、弱者の戦略から始めたいと思います。実際ランチェスター戦略上では、市場で最上位(もしくは上位数社のみ)が強者とされ、ほとんどの企業が弱者に当たりますのでがっかりされなくても大丈夫です。

弱者の戦略とは、弱者がどのようにすれば強者に挑んで勝つことができるかということです。上記の広域戦での競争力は量的な経営資源の2乗が影響しますので、量的経営資源を豊富に持つ強者が圧倒的に有利になります。したがって強者に対しては、広域戦、すなわち正面からまともに戦いを挑むとその圧倒的な経営資源を利用して粉砕されてしまいます。したがって弱者が採るべき戦略は「局地戦」です。

局地戦といえどももちろん量的な経営資源は影響します。しかし質的な経営資源である何らかの独自の競争力があれば、それが強ければ強いほど(量的経営資源の影響を最小限に抑えて)局地戦で勝利する確立が上がります。

「局地戦」というのは具体的にいうと次のような戦術です。

  • ニッチな市場に経営資源を集中してそこで圧倒的シェアを確保する
  • 空白地帯などの一部地域で集中的に営業や販売を行いシェア確保する
  • 顧客とのダイレクト販売などを重視した接近戦を展開する
  • 競争相手の少ない市場で一騎打ち戦を仕掛ける
  • 意外な展開や秘密裏に行動するなどの陽動作戦を行う

このような競争環境を作り出すことができれば、強者のメリットを最小限に抑えて対等もしくは自社が有利な環境で戦うことも可能になります。

強者は総力戦で有利な状況に!

強者の採るべき戦略は弱者の逆、すなわち弱者の戦略の芽をできるだけ摘んで、局地戦を展開されない、または無効にすることが基本スタンスです。そして、広域戦になればなるほど自社の豊富な経営資源をさらに(2乗に相当するほど)有利に生かすことができます。

具体的に強者が採る「広域戦」には次のようなものがあります。

  • 豊富な経営資源を生かした物量戦や、企業/グループ全体での総合力を生かした総合戦を展開する
  • 地域を限定せず網羅的に営業や販売地域を拡大させていく文字通りの広域戦を展開する
  • 広告宣伝やインターネットなどによる情報発信によってプロモーション等を展開し、顧客が弱者に到達する前に勝負を決する(遠隔による情報戦)
  • あえて競合の多い競争を重視し、フルラインナップの品揃えや系列内競合などにより自社の競争力を重複化させて弱者のつけ入る隙を与えない
  • 弱者が不利な新市場進出や価格戦を挑むことで弱者をおびき出し、弱者を消耗させる

強者の戦略は少し意地悪に見えますが、それは弱者の戦略を早々に封じ込めなければいつでも自らの立場を追い込まれる可能性があるからです。強者も弱者と同じように相手を恐れるからこそ徹底した戦術を展開します。

ランチェスター戦略の事例

H.I.S.の1点集中戦略

H.I.S.は、1980年当時はまだニッチな市場であった「格安航空券」のみを取り扱うことで、そこに経営資源を集中します。「航空券価格の世界標準化に挑戦する」という目標の下に、個人旅行する若者をターゲットとして格安航空券の取り扱いを始めました。利益を確保しなければならないので、遠距離の格安航空券を中心に取り扱います。そして大手旅行代理店と正面からぶつからないように、当初はパッケージツアーには一切手を出しません。そしてNo.1になってからパッケージツアーの取り扱いを始めます。

ニッチな商材に経営資源を集中して、うまく強者と衝突を避けながら弱者から強者へ変貌していったH.I.S.の進化は大変興味深い事例です。

トヨタのミート戦略

ミート戦略というのは強者が採る典型的な戦略で、商品や販売方法、プロモーション方法などに関して競争相手の模倣をすることで弱者の差別化戦略を無効にし、「質の勝負」ではなく自社が有利な「量の勝負」に持ち込もうというものです。

トヨタはこのミート戦略を常套的に用いており、比較的近年では2009年にホンダがハイブリッド車インサイトを市場投入した際に行いました。インサイトの販売価格が189万円と安価であったこともあり爆発的に売れました。トヨタは同じくハイブリッド車のプリウスをモデルチェンジし、旧型が233万円であったのを205万円で販売。さらに旧型プリウスをインサイトと同価格の189万円で発売するという徹底したミート戦略で対抗しました。

さらに当時は販社の系列ごとに取り扱い車種が違っていたものを、全販社でプリウスの販売を可能にし、弱者のつけ入る隙を与えない「確率戦」も展開する徹底ぶりです。

その結果プリウスは、2009年新車販売台数国内1位となる20万台以上を達成しました。

まとめ

・ランチェスター戦略は、戦闘の勝敗を決定する軍事理論に基づいている
・企業の競争力は、市場が大規模で広域になるほど経営資源の豊富な企業が有利になる
・経営資源に乏しい弱者企業は、ニッチ市場や特定地域などに経営資源を集中し局地戦に臨む方が有利である
・逆に経営資源が豊富な強者企業は、その豊富な経営資源を生かした総力戦を仕掛けるのが有利である

強者に立ち向かうのはどのような時でも恐ろしいものですが、ランチェスター戦略によると真っ向勝負を仕掛けるとやはり勝てる確率が低そうです。必要なのは「独自性」と「選択と集中」ということになるでしょう。それがあれば市場でも「柔よく剛を制す」ことができるようになるでしょう。

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