戦わずして勝つ!ブルー・オーシャン戦略とは
競争に勝つ方法ではなく、競争しないで勝つ方法を提唱した「ブルー・オーシャン戦略」は、発表当時に相当話題となりました。今回はそのようなブルー・オーシャン戦略とは一体どのようなものなのかを分かりやすく解説します。
競争に勝つ方法ではなく、競争しないで勝つ方法を提唱した「ブルー・オーシャン戦略」は、発表当時に相当話題となりました。今回はそのようなブルー・オーシャン戦略とは一体どのようなものなのかを分かりやすく解説します。
競争による消耗戦は避けたいもの
企業活動を行う上では、競合企業との競争は避けることはできません。常に競合の動きを注視し、先んじて行動しなければ競争に負けてしまうことになるでしょう。それではどのようにすれば競争に勝つことができるのか?
その答えは一様ではありませんが、「自社が有利な場で戦う」ことで競争を優位に進めることができます。
自社のコスト優位性が高ければ価格戦を挑む、開発力が高ければイノベーション次々の生み出すような戦略を取るなど相手を自分の土俵に引きずり込むことができれば、戦いを有利に運ぶことができます。しかし当然、競合相手も同じような戦術を打ってくるでしょう。いつまでも果てしない競争を繰り広げていれば、自社も競合も疲弊するばかりです。
“戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり”
孫氏の兵法でも「戦わずして勝つ」ことが「戦って勝つ」よりも優れた戦略であると説かれています。それは”無傷”で勝利を得られるからです。孫氏は合理主義者でしたから、別に華々しい勝利などには興味はなく、最小の損害(無傷)で、最大の勝利が得られる方法を「よし」としたのは当然でしょう。
企業でも同様です。競争のために大量リソース(ヒト、モノ、カネ&時間)を投入しても、得られる勝利の報酬はわずか…という状況は出来る限り避けたいものです。
市場経済の視点から見ると「競争」は、市場活性化の一要因ですのである程度は望ましいのですが、一企業にとってはできれば競争は避けたいもの。そのような「戦わずして勝つ」方法が「ブルー・オーシャン戦略」です。
レッド・オーシャンからブルー・オーシャンへ
ブルー・オーシャン戦略とは、2005年にフランス欧州大学院(INSEAD)の教授W・チャン・キムとレネ・モボルニュの手によって著された著書『ブルー・オーシャン戦略』で提唱された戦略です。
ブルー・オーシャン戦略は、常に競争が繰り広げられている既存の市場を「レッド・オーシャン」(真っ赤な海の如く血で血を洗うような激しい競争の領域)と名付け、そこでの消耗戦を避けて競争が存在しない新しい市場である「ブルー・オーシャン」(真っ青で透き通った、競争相手がいない領域)を自ら創造していくべきであるという考え方です。
レッド・オーシャンでは、競合各社がまさにしのぎを削って、限られたパイを奪い合っている状態ですので、コモディティ化が進むと共にますます競争が激しくなります。そうなると各企業が競争に費やすリソースも否応なしに増えていき消耗戦となります。一方競争が発生しないブルー・オーシャンでは、競争に費やすリソースが発生せず商品やサービスそのものに集中できるため、高いレベルの商品/サービスを提供でき、しかも高利益率を確保することができます。
しかしお気付きのように、そのような楽園「ブルー・オーシャン」はどこにでもあるものではありません。一体どのようにしてブルー・オーシャンを見つければ良いのでしょうか?
バリューイノベーションを起こす
「どのようにしてブルー・オーシャンを見つければ良いのか?」と申し上げましたが、ブルー・オーシャンは一種の新市場ですので、すでにどこかにあるものではなく、各企業が自ら切り開いて開拓する必要があります。
ブルー・オーシャン戦略ではそのような新しい価値を生み出すための方法として、自分たちの業界における一般的な機能の内、まず何かを「減らす」「取り除く」、そしてその上で特定の機能を「増やす」、または新たに「付け加える」ことで新たな価値を生み出す「バリューイノベーション」を起こす必要があるとしています。
具体的には現行の業界の標準的なサービスに対して、
- 取り除く
- 業界常識として備わっているもののうち、取り除くべきものは何か
- 減らす
- 業界標準と比べて思い切り減らすべき要素は何か
- 付け加える
- 業界でこれまで提供されていなかったもので、今後付け加えるべきものは何か
- 増やす
- 業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か
の4つのアクションをとることで新たな価値創造を試みます。
ブルー・オーシャン戦略では、これらの4つのアクションをマトリックス状で表現するために「アクション・マトリックス」と呼ばれます。
他にも、自社と他社が提供する価値の差別化を明確に表現できる「戦略キャンバス」と呼ばれるものが活用されます。戦略キャンバスとは、横軸に顧客に提供する価値の種類を並べ、縦軸でそれぞれの価値で顧客が享受するメリットの大小を表す一種のグラフです。
ある価値基準に対して、自社がより多くのメリットを提供できていれば上に、そうでなければ下側にプロットされますのでこれを折れ線グラフ状にすることで、自社の商品/サービスと他社の商品/サービスが提供している価値の差異が明確に認識することができます。
事例-「シルク・ドゥ・ソレイユ」のブルー・オーシャン戦略
それでは、実際のブルー・オーシャン戦略とはどのようなものなのか、著書の中で紹介されている「シルク・ドゥ・ソレイユ」を例に取って見てみましょう。
シルク・ドゥ・ソレイユはご存知の方も多いかと思いますが、大道芸人であったギー・ラリベーテが1984年にカナダで設立し、今や世界屈指のパフォーマンス集団です。設立からわずか20年でサーカス業界のトップに君臨する「リングリング・ブラザーズ&バーナム&ベイリー・サーカス」の売上規模に到達しました。
シルク・ドゥ・ソレイユの戦略で注目すべき点は何箇所かありますが、まずは「サーカス業界」という必ずしも成長産業ではない、むしろ斜陽産業で大きな成功を収めたことです。
当時のサーカス業界というものは、サーカス以外の娯楽産業の台頭によって売上が下り坂、おまけに動物保護団体による反発によって社会的な圧力も強くなるという相当厳しい状況でした。しかも、内部的には売れっ子の花形パフォーマーの報酬の高騰などの課題を抱えていました。
このようなサーカス業界=レッド・オーシャンでそのまま戦っても激しい競争に巻き込まれる上に、たとえ競争に買ったとしても得るものは多くはないでしょう。そこで競争の軸を変えてブルー・オーシャンを目指すために、シルク・ドゥ・ソレイユはアクション・マトリックスで次のような4つのアクションを取りました。
- 取り除く
- 花形パフォーマー
- 動物によるショー
- 館内でのグッズ販売
- 隣接する舞台での同時ショー
- 減らす
- 笑いとユーモア
- 危険やスリル
今までサーカスで重視されてきた花形パフォーマーや動物ショーをなんと廃止、収益源と考えられてきたグッズ販売や慣行的に行われてきた同時ショーも廃止です。また笑いやユーモア、危険やスリルの要素も従来と比べて重視しなくなりました。その代わりに、
- 付け加える
- テーマ性
- 洗練された環境
- 複数の演目
- 芸術性の高い音楽とダンス
- 増やす
- 個性あふれる独自のテント
の要素を追加または増やしました。その結果従来のサーカスとは違う競争軸でシルク・ドゥ・ソレイユは臨むことになり、既存のサーカスと争うことなく、新たな大人や法人顧客を相手に成功を収めます。
上記で述べた戦略キャンバスで表現すると、従来の競争軸であった花形パフォーマーや動物ショーなどを取りやめたのでそこでの競争は「消滅」し、テーマ性や芸術性の高い音楽やダンス、洗練された環境などのシルク・ドゥ・ソレイユが自ら(勝手に)定めた競争軸で戦うことになります。もちろんそこでの競争相手は当面は現れないので、真っ青なブルー・オーシャンです。
参照;シルク・ドゥ・ソレイユの戦略キャンパスの図 原著より
まとめ
- 競争が激しい市場「レッド・オーシャン」で戦っても労ばかり多くて得るものが少ない
- 新たな価値や競争軸を自ら創造し、競争相手のいない市場に打って出るのが「ブルー・オーシャン戦略」である
- ブルー・オーシャンは標準的なサービスに「取り除く」「減らす」「付け加える」「増やす」という4つのアクションを起こすことで得られる
いかがでしたでしょうか。ブルー・オーシャンはそうそう簡単に創造/発見できるものでもありません。しかし日頃からそのような視点で常にビジネスを俯瞰しておかなければ、新しい発想も生まれてきません。また、ブルー・オーシャン戦略についてご興味のある方はぜひ原著をご一読されることをお勧めします。