いまさら人に聞けないマーケティングの基礎の基礎 AIDMA、AISAS、AISCEASとは?
広告やプロモーション、マーケティングの業界で仕事をしていれば、「AIDMAの法則」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。AIDMAの法則とは、アメリカのローランド・ホールが提唱した、消費者の心理プロセスを示す略語です。実は1920年代に提唱されたもので、誕生から約100年が経とうとしている年季が入った、まさに“マーケティングの基礎”だといえるでしょう。
この記事の目次
AIDMAの法則は、もうすぐ誕生から100年になる
広告やプロモーション、マーケティングの業界で仕事をしていれば、「AIDMAの法則」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。AIDMAの法則とは、アメリカのローランド・ホールが提唱した、消費者の心理プロセスを示す略語です。実は1920年代に提唱されたもので、誕生から約100年が経とうとしている年季が入った、まさに“マーケティングの基礎”だといえるでしょう。
まず顧客は、その商品/サービスにATTENTION(注目)し、INTEREST(興味)を持ち、DESIRE(欲しい)と思い、MEMORY(覚え)て、ACTION(買う)ということになります。顧客がとる実際の行動でシミュレートしてみましょう。CMやチラシなどでその商品に注目し、その内容から興味を持って、欲しいと思います。そして、商品を記憶して、店に出むいて買いにいくのです。
広告の世界では、広告の役割は「AIDM」までだとしています。一般的にはBtoCビジネスで語られることが多いですが、この理論はBtoBでも十分に成り立つと考えています。ATTENTION部分は、アウトバウンドの電話営業や初回訪問であり、その後のコミュニケーションプランを作成するにあたってAIDMAの法則をベースに考えるケースも多くみられます。
AIDA、AISAS、AISCEAS、産まれ続けるバリエーション
現在はこのAIDMAの法則を基礎として、多くの変型、発展形が提唱されています。
たとえば「AIDAの法則」では、MEMORYがなくなり、欲しい→買うとシンプルな構造となっています。たとえばBtoCでは「テレビCMやチラシなどで“欲しいと感じ”、その後店頭で購入するために、MEMORY、つまり記憶すること」が欠かせませんでしたが、通信販売、特にネット通販が増えると「覚える必要がなく、その場ですぐに買う」ケースが想定できるようになりました。
また電通が提唱したネットでの購買行動プロセス理論「AISAS」では、興味を持ったら、検索し、購入後にシェアするという概念が入っています。AIDMAの法則はマス・マーケティングをベースにしたものでしたが、AIDA、AISASの特徴は「ネット上での購買行動」を意識し始めています。特に「SEARCH(検索する)」「SHARE(シェアする)」の二つの要素は、ネットならではといえるでしょう。
ほかにも、欲しいと思った後にCONVICTION(確信)が加わった「AIDCAの法則」や、AIDCAの最後にSATISFACTION(満足)を加えた、「AIDCASの法則」などもあります。そして現在、ネット上でのマーケティングに最も適合していると考えられているのが、「AISCEASの法則」です。
「AISCEASの法則」はAISASの法則に加えて、「Comparison(比較する)」「Examination(検討する)」が加わっています。確かに、現在の購買行動においては、複数の候補を比較検討するのは当たり前のことです。顧客に対して、企業が他社商品を比較検討して欲しくないのが一般的な心情ですが、それは事実上不可能。そこで、むしろ、積極的に「比較・検討」を支援するというモデルが「AISCEASの法則」だといえます。
ネットビジネス成功事例をAISCEASの法則から考察する
ここで気になるのが、「AIDMAだろうが、AISCEASだろうが、実践している企業、成功事例はあるのか」「机上の空論ではないのか」という疑問です。ここからは実際に成功している事例を、AISCEASの法則という側面から見ていきましょう。最もわかりやすい成功事例として挙げられるのが「Amazon」です。Amazonでは「この商品を見た人は、こんな商品も見ています」という類似商品を紹介するシステムによって、「Comparison(比較する)」を推進し、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」によって「Examination(検討する)」を後押ししています。また顧客による商品レビューは、「SHARE(シェアする)」になります。つまり、Amazonのモデルは、意識しているかどうかは別として、AISCEASを体現しているものになっているのです。他にも、自社通販サイトなどでも、同様のモデルを構築し成功しているケースは多いでしょう。
では、BtoBのビジネスモデルではどうでしょうか?成功事例として、二つのケースを紹介していきたいと思います。
まず一つ目は、事務機器大手のプラスの一事業部から始まった「アスクル」。オフィスでの消耗品や数多くの事務機器など、需要の高いサービスです。従来は、いわゆるルートセールスの営業担当が各社をまわり営業していましたが、顧客側からは「コスト削減と利便性の向上」が潜在的に求められていました。一方、事務機器販売会社でも、人件費の削減とサービス向上が課題だったといいます。それを両立させたのが「オフィス用品のネット通販」だったのです。種々雑多なオフィス用品がすべて通販で手に入るだけでなく、これまで使っていた事務用品よりも便利なものを見付けることもできるし、コスト削減、購買担当者の手間ひまも少なくなるというのが大きなセールスポイントです。
アスクルのポイントは「情報量の多さ」にある
アスクルのモデルを「AISCEASの法則」で分解すると、ATTENTION(注目)、INTEREST(興味)に関しては、現在、TVCMが主流となっています。BtoBでTVCMの効果があるのか?と考えてしまうかもしれませんが、アスクルがターゲットとする企業規模にその答えがあります。いわゆる、上場クラスの大企業が事務機器をネット通販するメリットは高くなく、大量購入というスケールメリットが勝るのです。では、どのような企業にメリットがあるかというと、中小企業です。事務機器メーカーにとって中小企業は一社ごとの売上は高くないので、営業リソースは割きにくくなってしまいます。しかし、大量に取りこめれば大きな利益が見込めるのです。中小企業側もコスト、人的リソースを削減しつつ、いままでよりも良い商品、サービスを受けられることになるでしょう。だからこそ、TVCMというマスメディアがATTENTION(注目)、INTEREST(興味)に効果を発揮するのです。担当者が自宅でテレビを見ているときに「興味を持ってもらう」わけです。
次に、「SEARCH(検索する)」「Comparison(比較する)」「Examination(検討する)」ですが、アスクルが扱う全商品の検索性はもちろん、類似商品の提示、商品スペック表示の徹底による比較・検討のし易さは徹底されています。他の通販サイトで同じ商品を見付けても、多くの場合、アスクルのサイトの方が商品情報は詳細だ。この「情報量の多さ」は、「Comparison(比較する)」「Examination(検討する)」を実現する上できわめて重要です。
従来、顧客に比較検討させることは、ビジネス上あまり歓迎されていませんでした。できれば他社の情報に触れず、自社の商品を買って欲しいのが通例です。しかし現在は、誰でもネットで検索すれば、競合商品やサービス、類似商品はすぐに見付けることができます。そうなると、逆に「隠さない」ほうが好ましいのです。比較しやすいように、情報を出来る限り提示することが、顧客の満足度を高めることにいつながるからです。
分かり難い業界・印刷業界をシンプルに見せたプリントパック
もう一社、似た事例を挙げてみましょう。印刷通販のさきがけと言える「プリントパック」です。実は、プリントパック成功の大きな理由として「破壊的な安さ」が挙げられますが、それと同等に重要なことが「情報開示」なのです。
従来、印刷業は顧客から中身が見えにくいビジネスでした。印刷技術や、それにまつわる専門用語が多く、見積の内容がわかりにくくなってしまいます。印刷会社も中小規模の会社が数多くあります。まさに「足を使った営業」で、中小の印刷会社が仕事を成立させていた業界でした。
ところがプリントパックでは、小難しい用語は排除して、「最終価格のみ」を提示します。しかもそれが、従来の印刷会社の見積よりも破壊的に安いのです。他の印刷会社を見ても、そもそも価格がわからないし、見積依頼をしてもすぐに回答は来ません。印刷という業界で価格情報をシンプルに提示し、はじめて「SEARCH(検索する)」「Comparison(比較する)」「Examination(検討する)」を実現したのが、プリントパックなのです。従来、同じことをしようとすると、何社もの会社に見積依頼を出す必要がありましたが、プリントパックではその必要がありません。プリントパックの成功事例を受けて、ラクスルなど印刷通販に参入する企業が出て来ていますが、プリントパックにとってはむしろ歓迎すべきことでした。なぜなら検索し、比較・検討する対象が増えることの方が、望ましいからです。
AIDMAもAISCEASの法則も、机上の論理ではない
BtoCのAmazonに限らず、アスクルやプリントパック、そして他にもBtoBで通販ビジネス、ネットを活用したビジネスモデルを活用している企業は増えています。ネットビジネスやいわゆるマーケティングが「BtoCのもの」という認識は間違っています。むしろ、BtoBでもBtoCでも、「ビジネスの土台にある考え方は共通」だと言えるでしょう。自社のビジネスモデルを検討する際に、同業他社のケースを研究することは多くありますが、同時に異業種を見ることも避けてはなりません。そのときに、AIDMA、AISAS、AISCEASの法則をベースに分析をしてみると「成功要因」を理解しやすくなるでしょう。これらの法則は、決して机上の空論ではなく、実践から産まれたものなのです。