マーケティングの基礎の基礎 ターゲティングとは?
マーケティングを考えるとき、必ず出てくる用語のひとつに「ターゲティング」という言葉があります。ところが、そのターゲットの設定で落とし穴にはまってしまうケースも少なくありません。ここでは「ターゲット」という用語から「ターゲティング」という技法までを、事例とあわせて紹介します。
この記事の目次
マーケティングを考えるとき、必ず出てくる用語のひとつに「ターゲティング」という言葉があります。ところが、そのターゲットの設定で落とし穴にはまってしまうケースも少なくありません。ここでは「ターゲット」という用語から「ターゲティング」という技法までを、事例とあわせて紹介します。
そもそも「ターゲット」ってなんだ?
あまりにも基本的な疑問ですが、ターゲットとはなんでしょうか? 実は、マーケティングの上で、ターゲットは3種類に分かれるといわれています。
- コンセプチュアル・ターゲット
- コミュニケーション・ターゲット
- プロモーション・ターゲット
実際には、「コミュニケーション・ターゲット」と「プロモーション・ターゲット」を厳密に分けないケースも多く存在します。ハッキリしているのは、「コンセプチュアル・ターゲット」は“商品やサービスを開発する際に設定される人物像”ということです。
一方、コミュニケーション・ターゲット、プロモーション・ターゲットは「誰に対してコミュニケーションを取るか」「誰にプロモーション(売りこみ)をするか」を指しています。
大きな違いは「コンセプチュアル・ターゲット」はあくまでも仮想の存在であって、後二者は実在する顧客だというところです。
あまりに細かすぎるターゲット設定は無意味?
この数年、マーケティングの世界で「ペルソナ」という言葉がよく聞かれるようになりました。ペルソナとはつまり「きわめて詳細に設定した顧客像」のことで、これをベースにサービスや商品の内容プロモーションが策定されます。まさに「コンセプチュアル・ターゲット」が名を変えたものといえるでしょう。
有名な事例としては「食べるスープをコンセプトにしたスープ専門店・Soup Stock Tokyo」が挙げられます。三菱商事の社内ベンチャーとして産まれた事業ですが、この事例では「秋野つゆ」というペルソナ(ターゲット)を設定し、彼女が満足する商品、サービスを開発したといいます。
秋野つゆ
37歳の女性
都心で働くキャリアウーマン
独身か共働きで経済的に余裕がある
シンプルでセンスの良いものを追求するタイプでこだわりがある
また社交的だが自分の時間を大切にし、人生を楽しみたい
(出典:http://u-note.me/note/47486832)
「Soup Stock Tokyo」の主力商品であるスープ(レギュラーサイズ)は、610円です。仮にターゲット設定を「20~30代のキャリアウーマン」としていたらどうでしょうか? 「この価格では高すぎる」という意見が出ても不思議ではありません。しかし、「経済的に余裕がある」「シンプルでセンスの良いものを追求するタイプでこだわりがある」という設定があるからこそ、この高めの価格設定が生きてくるのです。
上記のようにペルソナ設定はマーケティングでも重要な要素ですが、最近気になるのは「細かすぎるペルソナ設定」です。年齢や職場環境、学歴や趣味嗜好、家族構成にいたるまで、あまりに詳細に設定したペルソナは、本当に必要なのでしょうか。まるで「ペルソナを設定したら満足」とでも言うかのようなケースさえ見受けられます。
ここで今一度、「Soup Stock Tokyo」のペルソナを見てみましょう。具体的なイメージがし易いように細かく設定されていますが、「既婚か未婚」という項目がないことに気がつかれた方もいるかもしれません。ここで大事なことは「経済的に余裕がある」ことであって、既婚か未婚かは判断基準として必要ないというわけです。細かく設定すべきところはする、一方、“ゆるくていいところはゆるい”。それがペルソナ(コンセプチュアル・ターゲット)を扱う際のポイントになります。
つまり、ペルソナ設定を行う目的は「顧客に受ける商品、サービスを産みだすこと」であって、ペルソナそのものを生み出すことではないということです。
誰に何を伝えるか。これが変われば、言うべきことも伝え方も変わる!
マスマーケティングでは、顧客を“大衆”と捉えて一律のメッセージを送ってきました。もちろん、メディアの選択、メッセージの表現などで顧客をある程度絞りこんではいますが、必ずしも狙ったターゲットにリーチするとは限りません。それでもかつてのマスマーケティングでは“F1層(20~35歳の女性)”といったターゲット設定をしていました。
しかしこれがどれだけ無意味なものだったか、今となってみればわかるでしょう。30歳の女性にしたところで、年収、住む場所、実家暮らしかひとり暮らしか、既婚か未婚か、彼氏の有無、などで購買行動は全く違います。だからこそ、先ほどのペルソナのような設定が必要になってくるのです。
最近のマスマーケティングのターゲティングで象徴的なケースといえば、トヨタ自動車のジャン・レノがドラえもんを演じる一連のシリーズ広告が挙げられます。このシリーズでは、自動車そのもののアピールはあまり多くありません。大人になったのび太君たちが「免許を取っていろんな体験をする」ことに主眼が置かれています。
つまりこのターゲットは「まだ免許を持っていない若者」だといえます。昨今の若年僧の自動車離れを食いとめ、「自動車なんて要らない」と言っている若者に「自動車の面白さ」を伝えることを目的としている広告なのです。ここでのターゲット設定のポイントは、年収でも住む場所でもなく、ただ一点「自動車を要らないと思っている」ということだけ。言いかえると、それだけでターゲット設定ができているといえます。
ネット上でのコミュニケーション、プロモーションになると、もっとターゲティングが明確になってきます。ここで大事なことは、“顧客を限定することを怖れない”ということです。「自動車免許持っている若者にも魅力的な広告にしよう」などと考えたら、その途端に、伝えるべきメッセージがぶれてしまうでしょう。
ターゲット設定すれば「何を伝えるべきか」が見えてくる
では具体的にターゲット、とくにコミュニケーション・ターゲット、プロモーション・ターゲットを設定するには、どうすればいいのでしょうか。基本は以下のようになります。
<属性>
年齢・家族構成・職業・年収・居住地・学歴など
基本的な属性
<価値観>
大切にしているもの・考え
<悩み・課題・夢・願望>
今、解決したい悩みや課題
今、かなえたい夢や願望
大事なことは、<属性>と<価値観><悩み…>の違いです。<属性>はいわゆるプロフィールに過ぎないのであって、それよりも<価値観><悩み…>を大事にすべきでしょう。これは「ターゲットは何が好きか、嫌いか」「何に不満があるのか」を示すからです。
例えば、健康食品を販売したいときに「年収を1.5倍にしたい」という夢は必要でしょうか。ここでは「最近疲れやすくなって、朝、起きるのが辛い」といった、プロモーションしたい商品やサービスに関連した内容が求められます。
しかしこのペルソナ設定を、転職サイトのプロモーションに適用すると話は変わってきます。「年収を1.5倍にしたい」という設定が「転職」というテーマと合致し、ペルソナ設定を生かしたマーケティングが可能となるのです。
このように、この段階では「自分たちの商品やサービスのニーズ」に合わせてターゲットを設定しなければなりません。ただし、そのときに、ひとりよがりにならないことが必要となります。あまりに自社にとって都合が良すぎるターゲット設定は、マーケティングの目的とは外れてしまうからです。
「売りたい層」をペルソナ設定する
ペルソナ設定は商品やサービスのニーズに合わせる、とは言っても、あくまでも客観的に、自社にとって少々不利になる程度の設定が良い場合もあります。つまり、「顧客に合わせすぎる」ことなく、「売りたい層」を想定することも大切なポイントなのです。
具体的には、エイジングケアの化粧品なら「以前購入した化粧品が合わなかった」、転職サ
イトなら「友人が転職サイトで転職して失敗した」といったもの。このように自社にとって少し不利な情報を設定することで、具体的なメッセージの作成、提供する情報を精査することができるようになります。
「●●な化粧品が合わなかった方にも、好評をいただいています」
こんなメッセージを伝えれば、マイナスイメージを持っているペルソナからも、きっと興味を持ってもらえることでしょう。友人が転職サイトで失敗した、という経験を持つ人には「このサイトなら失敗しない理由」を具体的に伝えることで、心に響きやすくなります。ターゲットを明確に設定することで、「何を伝えるか」まで決まってくるのです。
得てして、広告やプロモーションでは「言いたいこと」を伝えてしまいがちです。だがその言葉が消費者に届くとは限りません。その人、一人ひとりにとって「魅力的な言葉」でなければ、聞いてもらえず、ふり向いてもらえないのです。だからこそターゲットを設定し、そのターゲットにとって魅力的な言葉を考える必要があります。
はっきり言えば、「ターゲット設定」なくして、マーケティングはうまくいきません。ターゲットを決めることが、マーケティングの第一歩なのです。